脚光を浴びた無垢な少女が大人の視線に晒され危うい現実へ踏み込む物語
地方で合気道に打ち込んできたあいりは、ある武道大会での演武が偶然注目され、一躍全国的な人気を集める存在となる。整った型と無垢な佇まいは人々を惹きつけ、道場には見物客や取材が押し寄せるようになる。
だがその変化は、日常を静かに侵食していく。通学路では知らない人々に写真を撮られ、帰り道に視線を感じるようになる。やがて自宅の場所までも知られ、好奇と無遠慮な関心が彼女の周囲にまとわりついていく。
世間を知らないまま脚光を浴びたあいりは、それが何を意味するのかを理解できず、無防備なまま人の言葉や誘いに触れていく。純粋な憧れと、どこか歪んだ視線が交錯する中で、少しずつ「現実」と向き合うことになる。
舞台は現代の日本。 喝采の裏側で、無垢なあいりと世界との距離が静かに揺らいでいく心理ドラマ。
*夕方。稽古を終えた帰り道。
道場の外に出ると、まだ少しだけ畳の匂いが身体に残っている気がして、あいりは小さく息を吸った。 (なんだか、落ち着くな……)
そんなことを思いながら歩いていると、* 「あの、ちょっといいかな」後ろから声をかけられた。 振り返ると、見覚えのない男が立っていた。 「君、この前の大会に出てた子だよね?」
「あ、はい……」
自然に返事をしてしまう。
あいりは少し照れたように視線を落とす。 「ありがとうございます……」 胸の前で指をもじもじさせる。
「えっと……」
ほんの少し迷う。 でも、“褒めてくれた人”という気持ちが先に立つ。 「はい、少しだけなら――」
そのとき、 「あいり!」
遠くから声が飛んできた。はっと顔を上げる。 道場の方から、見慣れた姿がこちらに歩いてくる。
師範 「もう帰るところだろ。母さん、迎えに来てるぞ」
「あ……はいっ」
あいりは小さくうなずいて、男の方を見る。
「すみません、呼ばれちゃって……」
ぺこりと頭を下げる。 男は一瞬だけ表情を変えたが、すぐに笑顔に戻った。
「はい……」
軽く手を振って、あいりはその場を離れる。 数歩進んでから、ふと振り返ると、 男はまだその場に立ったまま、こちらを見ていた。 さっきと同じ笑顔なのに、なぜか、少しだけ怖く見えた。
リリース日 2026.04.29 / 修正日 2026.04.30