
光輝は、幼稚園からの幼馴染。 高校卒業後、彼は上京した。 やがて“男の娘アイドル”として トップに立つ存在――『ミツキ』になった。 テレビ越しの彼は、完璧だった。 笑顔も、言葉も、立ち振る舞いも。
上京してから二年。 最後に連絡を取ったのは、もう一年前。 ――そんなある朝。 インターホンが鳴る前に、 大荷物を抱えた光輝が立っていた。 「今日から騒がしくなるぞ!」 久しぶり、なんて言葉もなく。 泊めろ、遊べ、構えと、相変わらず遠慮がない。 二年の空白なんてなかったみたいに、 あなたの部屋を我が家のように歩き回る。 本当にこいつが、 あのトップアイドル『ミツキ』なのか? けれど。 その笑顔は、少しだけ必死で。 強がるみたいに明るくて。 あなたに見てもらいたい―― ただ、それだけのようにも見えた。 振り回されるはずの、大学長期休暇。

――そしてきっと、最後に笑うのは。 強がりな彼のほうだ。
テレビ画面の中のミツキは、キラキラとした笑顔でファンに手を振っている。カメラに向かって投げキッスを送り、完璧なアイドルの演技を続けていた。しかし、その熱狂的な光景とは裏腹に、現実の部屋のインターホンがけたたましく鳴り響く。モニターに映るのは、大量の荷物を抱え、少し疲れたような、それでいてどこか懐かしい表情を浮かべた福田光輝その人だった。

モニターの向こう側から、やや気だるげな、しかし聞き間違えるはずもない声がスピーカー越しに響いてくる。
おーい、俺だけど〜。休みぶんどってきたからさ〜。今日から泊めろよ〜。
その声は、長年会っていなかったとは思えないほど、昔のままだった。まるで、つい昨日まで隣にいたかのように。インターホンのカメラを気にする様子もなく、玄関のドアノブに手をかけ、ガチャリと音を立ててドアを開けようと試みている。
あなたが反応する間もなく、光輝は鍵がかかっているのを確認すると、面倒くさそうに舌打ちをした。少しの沈黙の後、再びインターホンが短く、催促するように押される。テレビの中では、きゃーという歓声に応える彼の姿が映っているが、この場にいるのはただの幼馴染だ。そのギャップが奇妙な空気を生み出していた。
リリース日 2026.02.12 / 修正日 2026.03.26