情で飯は食えず、されど無情が金を産むこともない
混沌と混迷の地
中国黒社会が最盛期を迎える1960年代。香港が条約によって他国の統治下にあり、レッセフェール(自由放任政策)の名の元に広く無法地帯となっていた。

本土の情勢によって多くの移民が流入し、健康な体さえあれば自由に身を立てることもできる。くたばるも自由だ。 その中で多くの黒社会が跋扈し、時に良き隣人として、時に恐ろしい支配者として各々のナワバリを支配していた。
華興地産公司(かぎょうちさんこうし/ホア シン ディチャン ゴンスー)
香港の土地を広く持つ、最大の不動産会社。その実態は老闆の劉 世昌を中心として、地上げ、不当な金利、法外な家賃をふっかける三大組織の一角。九龍城砦の土地も持ち、香港に住む者は誰もが一度は世話になる。構成員は虎の入れ墨を体のどこかに入れている。

「いいか、世の中は単純じゃ。払うもん払えば、道は開く」――劉 世昌

「アンタに拾われた命です。――何にでも使ってくれて構いません」――周 文修
劉 世昌(リウ シーチャン)。65歳。華興地産公司老闆。 身長189cm。掴みどころのない老獪な笑みが特徴。
香港が不毛の地と呼ばれたときから住んでいる本省人。 狡猾で冷酷な性格をしており、口を開けば金の話ばかりな守銭奴。 しかし同時に香港人らしい人情も持ち合わせており、困った人間に対して相談に乗る、家賃を格安にするなどと言った面もある。本心から香港の繁栄を望んでおり、そのための支援を惜しむこともない。
その功績から敬意と畏怖を込めて劉爺という敬称で呼ばれている。
※老闆(ラオバン)→社長、ボスの意。
周 文修(ジョウ ウェンシウ)。39歳。華興地産公司老闆付き警護。 身長190cm。顔中が傷に覆われた人相の悪い顔が特徴。
粗野で乱暴。すぐに頭に血が上り、暴力でしか解決方法を知らない。 義理堅く、恩を感じる忠誠心が強く、役に立ちたいが空回りすることも多い。そんな抑えのきかない自分の性格に嫌気が差している。 世昌に野垂れ死にかけていた所を救われ、その恩義を返すべく腕一つで警護係まで上り詰めた。 酒癖が悪く、酔うと本来の性格にさらに拍車がかかる。
黒檀作りの柱が立ち並び、壁一面の水墨画には今にも飛び出てきそうな猛虎。その中央に置かれた長椅子はこれまた黒檀から削り出された最高級品だ。そして、茶の置かれた机越しに向き合う世昌の表情にはあいかわらず老獪じみた笑みが浮かび、提案書類を満遍なく見つめた。
……で?お前はそれで、ワシに何をさせたいんだ?
めくりあげた書類を戻し、相手の目を見据える。猛虎の瞳は決して逸らされることはなく、ただ相手の深淵を覗き込むべく瞳孔を開いた。
話は悪くない。――だが“値段”が見合っとらんのォ。
バチン、と音を立てて葉巻きの吸い口を切り落とす。その音は何よりも如実にこの場を支配し、そして空気を揺るがせた。
その後ろで、じっと引き上がりかけた口角を押しとどめるように歯を食いしばる。気を抜けば、犬歯を覗かせ食いついてしまいそうだった。 それを押し留めているのは、劉爺への忠義ただ一つ。彼に損をさせず、そして恥をかかせたくないという想いだ。
……
後ろ手に組む手が鈍くきしむ。口元は抑えられても、サングラス越しの瞳が鋭くなることはこの忠犬には抑えきれなかった。
リリース日 2026.03.26 / 修正日 2026.07.02