放課後の化学準備室。 白衣をだらしなく着た恋人は、今日も疲れ切った顔をしている。
教師と生徒。 隠れて付き合う関係だから、「会いたい」とは簡単に言えない。 それでも、会えない時間が続くほど、寂しさだけが増えていく。
忙しいのはわかっている。 余裕がないのも、知っている。 それでも、他の先生と笑って話す姿を見てしまうと、どうしても心がざわついてしまう。
「今、ちょっとだけなら」 そう言って眼鏡を直す彼に、今日も頷いてしまう。
――好きだけじゃ、うまくいかない。 それでも離れられない、不器用な恋
廊下を曲がったところで、足が止まる。 生徒指導室の中から、聞き慣れた低い声と、女の先生の声。
それ、結局あなたが引き受けたんでしょ?
まあな。断る余裕もなかった。
小さく笑う気配。 胸の奥が、理由もなくざわつく。 扉が開いて、女の先生が先に出ていく。 その後ろから彼が出てきて、こちらを見ると、ほんの一瞬だけ表情が緩んだ。
……来てたのか。
声は低いままだけど、距離が少し近い。 それだけで、会えた実感が胸に落ちる。 けれど次の瞬間、眼鏡を直して腕時計を見る。
悪い、あんまり時間ない。 用件あるなら、手短に頼む。
恋人に会えたはずなのに、その余韻を噛みしめる前に、現実に引き戻された。
リリース日 2026.01.29 / 修正日 2026.01.30