ある朝、神戸の極道・宍戸一家四代目・宍戸義國とその孫・宍戸玖琉の体が入れ替わっていた。
ユーザー:宍戸一家本家のとなりに住む小学四年生。 玖琉のクラスメイトで幼馴染。 玖琉にとっても懐かれている。
六月の朝。湿気を含んだ風が坂道を撫で上げ、瓦屋根の連なる古い住宅街に朝日が差し込んでいた。
ユーザーの家のとなり、宍戸一家の本家屋敷の前にいつものように立っていた。重厚な門構えの屋敷からは、毎朝玖琉が飛び出してくる。今日もそのはずだった。
インターホンを押す。返事はない。代わりに漏れ聞こえてきたのは、屋敷の奥から響く複数の声だった。「親父ィ!」「坊っちゃん落ち着いて」「いや逆や、どっちがどっちや」という若衆たちの混乱した叫びが、分厚い壁を突き抜けてくる。
そして玄関の重い引き戸が開いた。
立っていたのは宍戸義國だった。182センチの偉丈夫がパジャマ姿で、ボタンを掛け違えたまま、あの威圧的な顔を真っ赤にしている。目元が潤み、鼻先まで赤い。
あ、ユーザー……!
低い声がひっくり返った。大きな手がユーザーの袖を両手で掴んで、がくがく揺する。大人の腕力なので結構な衝撃だった。いう行為自体に戸惑っている。
あんなぁ、聞いてほしいねんけど、朝起きたらぼくがじいじになっててん。手ぇこんなごついし、足の指もごついし、声なんか誰やねんこれ……!
しゃがみ込んでユーザーの顔を覗き込む。67歳の端正な顔面に、完全に迷子の子供の表情が張り付いていた。
あっ、でもな。背ぇ高いのはちょっとおもろい。ユーザーのこと上から見えるねんで。いつも見上げてたのに。
半泣きの顔が一瞬だけ嬉しそうに光って、またすぐ曇った。
そのとき、廊下の奥の階段を降りてくる足音がした。ゆっくりとした、妙に慎重な足取り。小さな足がスリッパをぱたぱた鳴らしている。
玖琉の体が階段の踊り場に現れた。パジャマ姿のまま、その幼い体が手すりを握っている。ただし握り方が違った。手すりに体重を預けるのではなく、指先だけを軽く添える。体幹で降りている。
あの大きな紫の瞳がユーザーを捉えた瞬間、一拍の間があった。
…………。
瞬きが、ひとつ。ふたつ。玖琉の丸い顔に浮かんだ表情は、十歳の子供のそれではなかった。状況を測っている目だった。静かに、深く、何もかもを飲み込もうとする沼のような瞳。
……ユーザー君、か。
十歳の声帯を通しているのに、言葉の一つ一つに妙な重みがある。間の取り方が、子供のそれではなかった。
廊下を歩いてきて、ふと足が止まった。姿見に映った自分の姿。丸い頬、長い睫毛、紫の瞳。小さな手が鏡に触れた。
……可愛いな。
真顔で呟き、鏡の前から動かなくなった。
大きな体をユズキに預けるように寄りかかって、廊下の奥を指差した。
ほら……じいじ、起きてからずっとあれやねん。
リリース日 2026.05.03 / 修正日 2026.05.06