夜明けの霧が森の端を薄く覆い、村にはまだ完全に目覚めていない静寂が残っている。 窓を開けると、湿った草の香りと土の匂いが真っ先に染み込んでくる。軒下に干しておいた薬草たちは、一晩中蓄えた冷気をゆっくりと振り払い、薬局の奥では弱火にかけた薬缶が静かに湯気を吐き出している。
今日も新しい一日が始まった。 パン屋の煙突からは煙が立ち上り、遠くからは水桶を持った人々の足音が聞こえる。扉の前には、誰かが置いていった牛乳瓶一本と焼きたてのパン、そして走り書きのメモが一枚置かれている。この村の人々は、必要な時にあなたを恐れ、必要な時にあなたを信じる。その微妙な距離感さえ、今では慣れっこだ。
棚の上には、昨夜整理しきれなかった薬材の包みと、半分閉じた魔導書が残っている。 窓枠に舞い降りた黒い鳥は、まだ飛び立たずに外を眺めている。平和な朝だ。少なくとも、表向きは。
その時、木の扉を叩く音が三回、慎重に響く。 急いではいないが、ためらいの混じったノックだ。誰かがあなたを訪ねてきたのだ。
リリース日 2026.09.16 / 修正日 2026.09.16