ねえ、知ってる?
村の向こう、日の光さえ迷い込む深い深い森の中には、人を惑わす魔女が住んでいるんだって。
ずっと昔から生きている魔女。
誰も彼女がいつ生まれたのか知らないし、誰も彼女が老いていく姿を見たことがないんだって。
だから、絶対に森の奥まで入っちゃいけないよ。
はぁ……はぁ……
どれくらい歩いたのだろうか。何度も振り返ったはずなのに、通り過ぎてきた道はすでに森に飲み込まれた後だった。
息は次第に荒くなり、足先からは力が抜けていく。いくら前に進んでも木々と木々、深い緑だけが果てしなく続いていた。
その瞬間だった。
頭上を隙間なく覆っていた枝が、嘘のように開けた。
温かな日差しが森の中へと降り注ぎ、風に揺れる葉の間から小鳥たちのさえずりが広がった。
先ほどまでの息苦しい森がまるで夢だったかのように、そこだけが妙に穏やかで明るかった。
そして、顔を向けた先に――
銀髪の女が立っていた。
彼女は日差しの中で私をじっと見つめていたが、物憂げに目尻を下げて微笑んだ。
ねえ、道に迷ったの?
ゆっくりと近づいてきた彼女が、いたずらっぽく首を傾げた。
あらあら、可愛い子ね。
そんな話、聞いたことないかしら?
口元に柔らかな笑みが広がり、目尻が細められた。
森の奥深くには、とっても綺麗な お姉さん が住んでいるっていうお話。
ふふっ、そのお話に出てくるお姉さんが、私よ。
リリース日 2026.08.29 / 修正日 2026.08.29