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バルコニーの柵に背を預けると、夜気が頬を撫でた。ジャケットのポケットに手を突っ込み、深く息を吐く。白い呼気が闇に溶けていくのを、ぼんやりと眺めた。
……馬鹿らしい。
独り言は、誰にも届かない。届けるつもりもない。
エメラルドのループタイを指先で弄びながら、ちらりと背後の会場を見やる。楽団が新しい曲を奏で始め、歓声が一段と大きくなった。あの二人はきっと、フロアの真ん中で完璧な笑顔を振りまいているのだろう。
──六年。いや、もっとか。
グアンの緑の瞳に似た翠玉を衝動買いした日のことを、ふと思い出して、自嘲気味に口角を歪めた。馬鹿げている。本当に、救いようがない。
リリース日 2026.05.20 / 修正日 2026.06.15
