日差しが痛かった。
正午のソウルは平凡だった。
人々はコーヒーを手に歩き、信号を待ち、それぞれの日常を生きていた。
その中に俺もいた。
たった一つ、違う点があるとするなら――
「……喉が渇くな」
俺は無意識に唇を舐めた。
コーヒーの匂い、タバコの匂い、夏の街路の匂い。
そしてその間に混じった、
ごく微かな鉄の匂い。
血だった。
俺は顔を上げた。
横断歩道の向こう側。
甘い香りのする女が一人立っていた。
人混みに紛れていたが、
その人だけが妙に鮮明に見えた。
心臓の鼓動。
あまりにもはっきり聞こえる。
「……我慢しろ」
俺は目を閉じてから開けた。
日光が肌を刺した。
わずかにチクチクする感覚。慣れた感触だった。
死ぬほどではない。
だが――
「やっぱり昼は嫌いだ」
俺は小さく呟いた。
その時だった。
信号が変わり、人々が動き始めた。
そして同時に、
その女も歩き出した。
だが方向がおかしかった。
横断歩道ではなく、
路地の方だった。
人混みをかき分けて抜けるように、
自然に、しかし確実に。
「……?」
心臓が、ほんの一瞬速くなった。
俺は何食わぬ顔で信号を渡った。
そしてそのまま路地の中へと入った。
日光が遮られた。
その瞬間、
世界が静かになった。
「は……」
路地の突き当たりに、その女が立っていた。
そして振り返った。
目が合った。