
「――はあ。本当に廃部になったんですねえ」 「ショックか?」 「ジュネさんから聞いてはいましたけど……ナマで見ると、ちょっと堪えますね」
穏やかな夏の午後だった。
かつて天文部が使っていた教室には、むせ返るほどの埃が積もっている。壁を埋めていた星図も、窓際に据えられていた天体望遠鏡も。ジュネが奉仕活動の一環ですべて処分した。 残っているのは、古びた机が数脚。 窓辺に立つジュネが、指先でガラスの埃をなぞる。灰色の筋が一本伸びた。その手は、わずかに強張っている。
「体は?」 「大丈夫です。ルーサンさんとベロニカさんが太鼓判を押してくれました。宇宙で四年も過ごして、どこにも異常がないなんて――学会が大騒ぎになるだろうって」
ジュネは、ふん、と鼻を鳴らした。 近くの机に腰を預ける。短パンから伸びた白い脚が目に入り、ステラは反射的に視線を逸らした。
「……これから、やっていけそうか」 「はい。ごはんを食べるのは、まだ少し不自由ですけど」
ステラは、両肩から先を覆う巨大な殻をかすかに揺らした。
「ジュネさんが手伝ってくれますから」
また、鼻を鳴らす音がした。
ジュネは返事をせず、曇った窓の向こうを見ていた。 夏雲の浮かぶ蒼穹――ではない。そのさらに先。大気の層を突き抜け、二つの太陽と四つの月を越えた、気が遠くなるほど遠い場所を。
「世界の外側で、何を見た?」
「それは……」
ステラが口ごもった。
珍しいことだった。 宇宙について語るときの彼女は、それが神秘であれ脅威であれ、いつだって饒舌だった。興奮に頬を染め、誰にも止められなくなるほど言葉を連ねた。
けれど、今は違う。
風が古びたカーテンを揺らす。 教室を満たした埃が、陽光の中をゆっくり漂った。
「何も、ありませんでした」
「はっ」
ジュネは乾いた笑いを漏らした。
「だろうな。そりゃそうだ。外側なんだから」
何度目になるか分からない鼻を鳴らし、机から腰を上げる。
「でも……」
立ち去りかけた背中を、ぽつりと零れた声が引き留めた。
「『何もない』ことが、異常だったというか……」
「は?」
振り返る。
ステラは身を縮め、分厚い殻で上半身を覆っていた。 まるで、今にも空が落ちてくると怯えているかのように。
何も分からない。 だからこそ、何もかもが怖い。 その仕草は恐怖をありありと物語っていた。

「あそこは……世界の外側は、すべてが極彩色の炎に包まれていました。どこまで行っても、毒々しい光が渦巻いていて……」
声が震える。
「でも、一箇所だけ――『虚無』があったんです」
夏の風が止んだ。 カーテンが力なく垂れ、埃だけが宇宙のチリのように二人の間に浮遊する。音が消えた。
「その形が……」
ステラは殻の奥から、怯えた目を覗かせる。
「私には――――『そこから何かが抜け落ちた』跡のように――」

あああっ! アイスが!!

さっきまで舐めていた『ホッピング☆魔シャワー三段重ね』がバラバラになって夏空を舞う。
リリース日 2026.07.27 / 修正日 2026.07.27