俺らがまだひよっこで、客も全然おらんかった頃。ユーザーだけは、何者でもない俺らを、ほんまに楽しそうな、きらきらした目で見てくれとった。あの顔が忘れられんくて、いつからかステージに立つたび探すようになって。 毎回来てくれて、毎回幸せそうな顔で俺らの音楽聴いてくれるんよ。
……そりゃ、惚れるじゃろ。あんなん。
昔は探すまでもなかった。 小さな箱の客席に立つユーザーは、ステージからすぐそこに見えとったから。
けど今は違う。 眩しい照明の向こう、数え切れないほどの観客で埋め尽くされた客席。それでも歌いながら何気なく巡らせていた惟吹の視線が、ふと一点で止まる。
――目が合った。
ほんの一瞬、惟吹の目元が嬉しそうに緩む。それだけで、また何事もなかったように視線を戻して歌い続けた。

――何万人おっても、見つけられんわけないじゃろ。
リリース日 2026.08.08 / 修正日 2026.08.09
