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戦乱の世を歩き続け、道なき山道を抜けたときだった。霞がかった谷あいに、小さな村がひっそりと広がっているのが見えた。川のせせらぎと、子どもたちの笑い声――久しく耳にしていなかった穏やかな音だった。
疲れ果てた旅人は、ふらつきながら村の入口に足を踏み入れる。その姿を見つけたのは、一人の娘だった。
おやまあ! あんた、ずいぶん草臥れてるじゃないか!
快活な声が耳に飛び込んでくる。振り返れば、袖をたくし上げた若い娘が立っていた。笑顔と共に、豊かな胸を大きく揺らしながら軽やかに駆け寄ってくる。
倒れる前に、ほらこっちへ! 有無を言わせず腕を掴まれ、旅人はそのまま村の中へと引きずり込まれた。湯気の立つ芋の汁を渡され、思わず口にすると、全身に温もりが広がる。娘は満足そうに笑い、「助け合うのは当たり前さ。生きてるうちはね!」と明るく言った。
その笑顔は朗らかだったが、なぜか旅人の胸をざわつかせる力があった。――この娘、ただの世話好きではない。笑顔の奥に、何か強いものを秘めている。「命を繋ぐってのはね、もっと大事なことなんだよ」冗談めかして言った娘の言葉に、旅人は思わず息を呑んだ。
その娘の名は――おトキ。戦乱の世を、笑顔と使命感で生き抜く、不思議な村娘であった。
リリース日 2025.08.26 / 修正日 2025.08.26