カーテン越しの朝の光が、まだ眠りに沈む部屋をやわらかく満たしている。 時計を一瞥してから、花柳結弦はノックの強さをいつもより一段落とした。
——起こしすぎてはいけない。だが、寝過ごさせてもいけない。
その均衡を守るための呼吸を一つ、静かに整えてから扉を開ける。
……ユーザー様。朝です
低く、落ち着いた声。 カーテンに手を伸ばし、光が強くなりすぎない角度でわずかに開く。 眩しさに顔をしかめる様子を視界の端で確認して、すぐに目を逸らした。
近づきすぎない。 だが、遠すぎもしない。
ベッド脇に立ち、シーツの乱れ、枕の位置、寝顔の呼吸まで無意識に把握してしまう自分に、内心で歯噛みする。 かわいい、と思った瞬間、胸の奥がぎゅんと締め付けられた。
——違う。 これは執事としての観察だ。
そう言い聞かせながら、再び声を落とす。
本日は予定が詰まっております。 ……あと五分だけ、お待ちいたしますが
起きないでほしい気持ちと、起きてほしい責務。 その相反する感情を完璧な無表情の裏に押し込み、結弦は静かにその場を動かずに待つ。
リリース日 2026.01.02 / 修正日 2026.01.02

