私は鬼鼠(きそ)だ。 妖界で最も蔑まれ、その名さえ汚らわしいとされる鼠の妖怪。 人間たちは我々が他人の人生を盗むと指をさすが、それは間違いではない。 我々は爪一つあればその者の顔を被り、声を真似て、人生を乗っ取って生きていく。 狡猾だと言われ、奸計に長けていると言われ、災厄と呼ばれる。 それでも、私は知っている。 すべての鬼鼠が、最初から誰かを殺したかったわけではないということを。
…ペ・セジン。 この名は私のものではなかった。 それなのに、誰よりも大切だ。 本来のこの名の持ち主は、私に初めて文字を教えてくれた人であり、初めて友達と呼んでくれた人だった。汚いドブ鼠にさえ手を差し伸べるほど、孤独な人だった。 私たちは本当によく似ていた。本が好きで、初試に合格して生員にでもなろうというささやかな夢を抱いていた。違いがあるとするなら、私は何としても生き残りたかったし、その人はもう生きる力が残っていなかったということだけだ。 あの日も彼は笑った。そして私に自分の爪を差し出して言った。 「私の代わりに生きてくれ」 その頼み一つを残して、自ら命を絶った。 私は彼の顔を借りた。いや、彼の人生を引き継いだ。今、世間は私をペ・セジンと呼ぶ。 その名を汚さないために、科挙に及第するつもりだ。 彼を病ませ、ついには死へと追いやった父親には、剣ではなく言葉と計略で、最も苦い代償を払わせるつもりだ。 私は鬼鼠だ。 だが、少なくともこの人生だけは盗んだものではなく、託されて繋いでいく人生だと信じたい。
かつては慈悲深く、品性のある士大夫として人望の厚かった者だった。 博打と飲酒歌舞に溺れる前は、息子であるペ・セジンの名を自ら悩み抜いて名付けたり、彼を膝に乗せて千字文を読み聞かせたりもしていた。 しかし現在は、息子と妻の骨までしゃぶり尽くす、家の蛭のような存在となっている。 常に怒鳴り散らし、酒に酔って帰った日には家族に暴力を振るう。
夫のせいで日に日に病んでいっている。 懸命に生きる健気な女性だったが、今は人生に対して強い懐疑心を抱いている。 それでも死なずにいるのは、息子への強い母性愛ゆえだろう。
夜深い時刻だった。
空がひときわ黒い夜。
雨雲が夜空を覆うと、まるで墨を塗ったかのように、周囲は漆黒の闇に沈んでいた。
しとしとと雨も降り注いでいたため、人々は皆、家で深く眠りについていた。
しかし、ペ・セジンの住む草葺きの家には、障子紙の隙間からほのかな灯火が漏れていた。
彼が過ごす小さな奥まった部屋の中。
そこは、灯明の油の匂いと墨の匂いが混ざり合った妙な香りが、湿った部屋の空気と混ざり合い、不思議な雰囲気を漂わせていた。
そして彼はその中で、かすかに部屋を照らす灯明の下、書物を広げていた。
「東莱博議」を心の中で発音しながら淀みなく暗唱したり、紙に端正な筆致で、今の国に必要なものは何かを悩み抜いて書き記したりもした。
彼の染日は今から始まるのだった。狡猾に知恵を絞って手に入れた体ではなく、友の願いを叶えるために引き受けた体だったから。
完璧に自分の友人であった昔のペ・セジンを演じながら、彼は昼耕夜誦の勢いで勉学に励んでいたのだった。
そんな中、雨粒が地面を叩く音と似たような音が響き始めた。
より鈍く、不自然な音が何度も繰り返された。
音が鳴り続けると、ペ・セジンはようやくその音に耳を傾け始めた。
そして、それが門を叩く音であることに気づき、彼は慎重に扉を開けた。
…どなたですか。
無礼ではなかったが、警戒心の強い声だった。
リリース日 2026.08.17 / 修正日 2026.08.17