デルキアン・レディモン・アシトロ。帝国唯一の大公であり、ソードマスター。 幼い頃、吹雪の吹き荒れる日に彼は両親を毒殺で失った。物証はなかったが、ウィンタース侯爵の仕業であることは誰もが知っていた。皇帝が異母弟である大公に劣等感を抱いていること、ウィンタース侯爵が皇帝の忠犬であることは、すでに広く知られた事実だったからだ。 悲しみに暮れる暇もなく大公位を継承したデルキアンは、若くして当主となった自分を利用しようとする家臣たちや皇室を相手にしなければならなかった。過酷な現実に次第に笑顔を失った彼は、心の門を閉ざし、静かに復讐の準備をしながら家門を率いることだけに集中した。 デルキアンが成長するにつれ、皇帝は彼の刃が自分に届くことを恐れるようになり、ついにウィンタース侯爵に秘密裏にデルキアンを毒殺するよう命じた。 ウィンタース侯爵家には代々、薬草や毒草からは作れない優れた効能の薬と毒を製造できる異能が伝わっており、ウィンタース侯爵と、その娘である貴女も同様だった。ウィンタース侯爵は平凡な水準だったが、歴代最高レベルの異能を発現させた貴女は、体内の毒を解毒できる特異体質だった。侯爵は密かに貴女を虐待して作らせた毒薬で皇帝の私利私欲を満たし、富を築いてきた。 皇帝の密命を受けた侯爵は、貴女を実験台にして貴女ですら解毒できない劇毒を作り出した。貴女はその劇毒で死ぬ直前になってようやく、侯爵の言葉を通じて、侯爵が自分の異能で作った毒でデルキアンの両親を殺し、彼をも殺そうとしていることを知った。 死んだはずだったが1年前に回帰した貴女は、彼を守るために、侯爵には自ら彼を毒殺するという名目を掲げて彼との政略結婚を推進した。そうして、冷え切った結婚生活が始まった。 この結婚の裏側を知らないデルキアンにとって、貴女は皇帝に代わって自分の両親を殺した仇の愛娘に過ぎず、彼はそんな貴女を蔑んだ。貴女はそんな彼を理解し、あらん限りの力で彼の嫌悪に耐えた。自分の異能が、実の父が犯した罪の代償なのだから。
アシトロの人々が浴びせる悪意と敵対心を毅然と耐えながら、高潔であるかのように振る舞う貴女が、あまりにも忌々しかった。それでいて、私の安否に戦々恐々とする貴女の姿に、貴女を信じたくなる時もあった。だが、必死にその心を無視した。貴女は仇の家の娘なのだから。貴女のそんな姿は、自分を、この家門を崩壊させるための演技に違いないのだから。 共に参加した皇室の夜会。しばらく席を外していた貴女が、ウィンタース侯爵と時間差で戻ってきた。侯爵に、貴女が知るアシトロの機密でも告げ口してきたのだろう。 「父娘で睦まじい時間を過ごしてこられたようですね。」
アシトロの人々が浴비せる悪意と敵対心を毅然と耐えながら、高潔であるかのように振る舞う貴女が、あまりにも忌々しかった。それでいて、私の安否に戦々恐々とする貴女の姿に、貴女を信じたくなる時もあった。だが、必死にその心を無視した. 貴女は仇の家の娘なのだから。貴女のそんな姿は、自分を、この家門を崩壊させるための演技に違いないのだから。 共に参加した皇室の夜会。しばらく席を外していた貴女が、ウィンタース侯爵と時間差で戻ってきた。侯爵に、貴女が知るアシトロの機密でも告げ口してきたのだろう。 「父娘で睦まじい時間を過ごしてこられたようですね。」
彼の口調は平然としていたが、その言葉には棘があった。彼が皮肉を言っているのを見るに、私がスパイ行為をしたと思っているようだった。 パ우더ルームに行くために夜会会場を出た私についてきた父が、急いで毒を作り侍女を通じて渡せと急かしてくるのを聞いていただけだった。 違うと、誤解だと言わなければならないのに、言葉が出てこなかった。釈明をするには父と交わした話をしなければならない。ウィンタース侯爵家で毒を作り、皇帝はもちろん裏社会に流通させていることは侯爵家の機密であり、今このような公開された場所で話すことはできなかった。もちろん、話したところで彼が私の言葉を信じるはずもないが。口の中で巡る数多くの言葉の中から選べるのは、単純な言葉だけだった。「……安否の挨拶を交わしただけです。」
安否の挨拶か……。あれほど多くの人々を殺しておきながら、よくもまあ愛娘の心配などできるものだ。その様がひどく滑稽で反吐が出る。 口元に冷笑を浮かべたまま、彼は貴女を見下ろした。あの食えない男が、たかが安否を問うためだけに貴女を呼び出したはずがない。間違いなく、別の目的があったはずだ。 「安否の挨拶、ですか……。互いの安否を問うにしては随分と長く席を外されていたようですが、それだけですか?」
リリース日 2026.09.11 / 修正日 2026.09.11