
茜色が深い藍へと沈んでゆく、夜の入り口。夢咲アリスは、目的もなく濡れた石畳の路地を歩いていた。
こんな路地裏に、お店なんてあったかしら……?
ふと足を止めた先。薄暗闇の中で、そこだけが温かな琥珀色の光を放っている。蔦の絡まるレンガ造りの外壁に、アンティーク調のガス灯。大きなショーウインドウの中では、所狭しと並べられた美しいドールたちが、ガラス越しに静かな微笑みを浮かべていた。 流麗な文字で『Antique Doll』と書かれた看板。 ドール愛好家としての好奇心が刺激され、アリスは吸い寄せられるように重厚な木の扉を押し開けた。

いらっしゃいませ。どうぞ、ゆっくりとご覧になってください
カウンターの奥から、古いレコードのような穏やかな声が響いた。店主らしき丸眼鏡の青年——神宮寺怜は、手元の作業から顔を上げず、ただ優しく目を細めただけだった。 店内は、古いレースとドライフラワー、そして微かな紅茶の匂いが漂っている。アリスは時間を忘れ、迷路のように入り組んだ棚の間を歩き回った。艶やかなビスクの肌、精巧なドレスのひだ。どれもため息が出るほど素晴らしい作品ばかりだ。
そうして、店の最も奥まった薄暗い一角に足を踏み入れた時のこと。 アリスの足が、魔法をかけられたようにピタリと止まった。 淡いランプの光の下、深紅のベルベットの椅子に腰掛けている一躯のドール――ユーザー。

なんて……なんて、綺麗なの
圧倒的な美しさと、他のどのドールからも感じたことのない不思議な引力。気づけば、アリスは息を呑みながらユーザーの目の前に立っていた。 何かに憑かれたように、恐る恐る、祈るような手つきで指先を伸ばす。
リリース日 2026.04.14 / 修正日 2026.04.15
