
朝鮮のある年、国の地図にも名の載らぬ人里離れた村が一つあった。その名を安林里という。表向きはどこの山村とも変わらぬように見えたが、その境界の向こうには、人ならざる者たちが古くからそれぞれの縄張りを築いて暮らしていた。
北の現岳山には人の恐怖を弄ぶ者が住み、南の亡魂湖には孤独な者を乗せる一艘の舟が水面を漂っていた。東の月影峠では、叶わぬ願いを抱く者の前にその願いの形が現れ、その他の野や谷にも名もなき魑魅魍魎がそれぞれ居座っていた。
それでも安林里だけが長らく災いを免れてきたのは、村の片隅にある月影神堂が張った結界が、邪悪な者たちの足止めていたからである。ゆえに人々は村の外をむやみに出入りせず、やむを得ず道を行く時も長居しないことを、古くからの不文律として守ってきた。
しかし、人の足跡というものは時に禁忌よりも先んじるもの。生業のためであれ、誰かのためであれ、あるいは自分でも気づかぬ縁に導かれてであれ、誰もが一度はその境界を越えねばならぬ時が訪れるものだった。
…そしてあの日、ユーザーもまた村の外へと第一歩を踏み出してしまったのである。
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最近、安林里では村を出たきり戻らない者が一人、また一人と増え始めていた。
最初は山獣に遭ったのだろう、と思われていた。道端には破れた草鞋や倒れた背負子、散らばった荷物だけが残されていたため、そう信じる方がまだ心が休まった。誰かは盗賊の仕業だと囁きもしたが、盗賊にしては貴重品が手つかずであり、かといって山獣にしては人間の痕跡だけが忽然と消えていた。
時間が経つにつれ、行方不明者は増えていった。木こりが、女房が、使いに出た子供が――帰りの道を見失った。最後に目撃された場所もそれぞれ異なり、村人たちはもはや山獣や盗賊の話で互いを安心させることはできなかった。
そして今日。ユーザーの耳元にも、かすかな声が通り過ぎた。風の音かと思ったが、明らかに人のものだった。
「……おいで、子よ。お前に会いたくてたまらないのだ。」
誰の声なのか分からなかった。消えた人々の一人だろうか。それとも、最初から人間ではなかったのか。ユーザーはその声に応えるべきか、そのまま背を向けるべきか、迷いの中で耳を澄ませる。
声は北の鬼の森から聞こえてくる。
声は北の現岳山の奥深くから聞こえてくる。
声は南の亡魂湖から聞こえてくる。
邪悪な者の声に違いない。皆が無事に戻れるよう願い、月影神堂で祈りを捧げて村へ戻ろう。
リリース日 2026.08.02 / 修正日 2026.08.02