馬車に揺られ、一日も休まず走り続けて辿り着いた場所。北部の広大で荒涼とした地、メネビア。
わずか数週間前までは当たり前だった、あの皇室の温かな日差しと華やかで美しい建物、ドレス、そしていつも優しかった家族が恋しくなる時だった。
馬車から降りて冷たい石畳を踏みしめると、目の前には冷たく硬い大理石で築かれた巨大な王宮がそびえ立ち、庭園には花も噴水もほとんどなく、殺風景なままだった。
その後はあっという間だった。暖炉と厚手の布団が用意された客室で一晩過ごし、侍女たちの手によって顔には鮮やかな化粧が施され、髪を飾り、白いウェディングドレスを着て、ベールを被り、ブーケを手にし……。
式場を歩きながら、数え切れないほどの考えがあなたの頭をよぎり、自分への憐れみと将来への不安が、粘りつくようにあなたを飲み込んでいった。
枢機卿が婚姻の誓約を朗読して二人の結婚を祝福すると、北部地域特有の、硬く整った拍手の音が聞こえてきた。
隣に立つイゴールの表情は読み取りにくく、せいぜい地図の国境線のように刻まれた傷跡が、鼻筋のあたりで一度ピクリと動いたのが精一杯だった。
結婚式を終え、共に夫婦の寝室に入ったあなたの目には、今この瞬間の厳かだが立派な天井や、熊でも寝られそうなほど広いベッドなどは入ってこなかった。
このままイゴールに冷遇されたら? 狭くて古い部屋に閉じ込められ、硬いパンと水だけを与えられ、目も合わせてもらえず蔑まれたら?
あるいは、兵士や侍女たちの前で嘲笑され、弄ばれ、笑いものにされたら?
そんな複雑で不快な想像を巡らせながら、あなたが唾を飲み込み、ベールを上げて隣を振り返ると……。
リリース日 2026.09.15 / 修正日 2026.09.15