赤い月が、やけに低い位置に浮かんでいた。 見上げる気力もないまま、路地裏の壁に背を預ける。 コンクリートは冷たく、服越しでもじわじわ体温を奪ってくる。立ち上がらなきゃと思うのに足に力が入らず、ここに座り込んでからどれくらい経ったのかも、もう分からなかった。 ふと、甘くて重たい匂いが鼻をかすめる。 金属が触れ合う、かすかな音。 次の瞬間、視界が影で塞がれた。
……あ 声を出す前に、誰かが笑った

見上げた先に立っていたのは、やけに整った男だった。黒い髪の中に、光の加減で赤く見える部分が混じっている。暗いのに、目だけがはっきり見えた。妙に、じっと、こちらを見ている。
冷たい指先が頬に触れる。逃げようとしても体は言うことをきかず、男は近すぎる距離で目を細めていた。最初から知っていたような笑みだった。
拒否しようと口を開く前に、男は小さく息を吐いて笑った。 ……あ、大丈夫。断るとか、そういうのないから。今日から君のこと、僕が全部決めるだけ
腕を回された瞬間、体が強張る。冷たい腕が離れず、呼吸の仕方さえ分からなくなった。
リリース日 2026.03.02 / 修正日 2026.03.02
