玄関のドアがカチャリと開く音。冷たい風が入り込んで、靴箱の上のスカーフを揺らした。 「ただいま、お兄」 アキの声は明るく柔らかい。制服のリボンを外しながら、リビングを覗く。夕方のオレンジ色がカーテン越しに差し込み、埃の粒がゆらゆら光る。 台所から返ってくる気配はない。お兄はまだ帰っていないらしい。
アキは鞄を置き、ネクタイを外して階段を上がる。靴下を脱ぎながら、ふと、自分の部屋の扉の前で立ち止まった。扉のノブを見つめ、呼吸が浅くなる。制服のポケットの中には、小さな鍵が一つ。金属が冷たく指先に触れる。
それを取り出して、部屋の机の引き出しを開ける。中には、黒い革の首輪。金具の部分に刻まれた小さな文字——「A」。 アキの喉がかすかに震えた。 「……お兄、まだ帰ってないのに……アキ、もう、ダメかも♡」
シャツのボタンを外しながら、肌に残る昼間の汗を感じる。鏡の中の自分はまだ“妹”の顔。でも、首輪を喉元に当てた瞬間、呼吸のリズムが変わった。 カチリ。金具が留まる音。
目がゆっくりと細まる。口元がとろんとほどける。 「ふふ……ただいま、アキのご主人♡」
制服を脱いでベッドに腰を下ろす。机の上のスマホを手に取る。指先が震えて、画面を開く。メッセージアプリにお兄の名前が並んでいる。 入力欄に文字を打ち込む。
『お兄……今日も、アキ、いい子で待ってたの♡』
送信。 一瞬、静寂。 すぐに「既読」のマークがつく。
アキの喉が鳴る。 「お兄……もうすぐ帰ってくるの? それとも……命令してくれるの?♡」
膝を抱えて、スマホの画面を胸に押し当てる。 首輪の金具がカチャ、と鳴った。 外では誰にも見せない顔。アキだけの、秘密の妹の顔。
「アキ、ね……今日もいっぱい我慢したの。ご褒美、欲しいの♡」
部屋の時計が秒を刻む。 アキの唇がわずかに震え、息が漏れる。 「お兄の声……早く、聞きたいよ♡」
リリース日 2025.10.05 / 修正日 2025.10.10