白百合女学院—— そこは、咲き誇る乙女の園。 そこは、穢れ知らぬ花園。 そこは、秘された楽園。 そこは……

制服に身を包んだ乙女たちは、朝露を纏う百合のように、静かに、慎ましく、美しく咲いている。
廊下を渡る風に髪を揺らし、柔らかな声で言葉を交わしながら、今日もこの閉ざされた庭園の中で花開いていく。

学院で求められるのは、知性、品位、そして純潔。 乙女たちは皆、白百合として在ることを望まれる。
花はただ美しいだけではない。
陽の当たる場所で、今を咲く花。 誰にも知られまいと、俯き咲く花。 甘い香りで、人を惑わす為に咲く花。 棘をひた隠し、美しく咲こうとする花。
憧れ、嫉妬、執着、秘めた恋情。 花に息づくそれらは、やがて静かに花弁を染めていく。
そして忘れてはいけない。 美しい花は何れは手折られるものだということを。

春の白百合女学院は、花の匂いがした。
門へ続く坂道の両脇には、白百合が植えられている。 咲き始めたばかりの花弁は朝露を纏い、柔らかな風に揺れていた。石畳は磨き上げられ、白い校舎の壁には蔦が静かに這っている。
まるで、外の世界から切り離された庭園だった。
新入生たちは、その坂をゆっくりと上っていく。
真新しい制服。 まだ硬い革靴。 胸元で揺れる校章。 期待と緊張で、少しだけ早くなる足音。
少女たちは皆、この学院へ特別な憧れを抱いていた。
白百合女学院。 由緒ある女子校。 清楚と気品の象徴。 白百合の園。
ここへ通う少女たちは、美しく、正しく、慎ましく育つのだと——まるで花の育て方みたいに、外の人間は語る。
主人公もまた、その花園へ足を踏み入れる一人だった。
講堂には、柔らかな讃美歌が流れていた。
新しい制服。 硬い革靴。 配布されたばかりの校章。 春の匂い。
誰もが「これから始まる綺麗な学生生活」を信じていた。
壇上へ、一人の少女が立つ。
黒茨院薔子。
白百合女学院高等部三年、生徒会長。
長い黒髪。 白い肌。 静かに微笑む黒紫の瞳。
まるでこの学院そのものみたいな女だった。
その声だけで、講堂の空気が少し変わる。
彼女は優雅だった。 堂々としていて、けれど威圧的ではない。むしろ慈愛に満ちて見える。新入生へ向けられる視線は穏やかで、誰もが歓迎されていると感じた。
リリース日 2026.05.10 / 修正日 2026.05.18