【舞台——霞ヶ淵】
場所:山深い旧街道沿い、標高約700mの谷間。四方を山に囲まれ、日照時間が短い。
地形:小川が村を二分し、北に田畑、南に民家が集まっていた。村の背後には「御子森(みこもり)」と呼ばれる禁足の森。
文化:かつて「種継(たねつぎ)」と呼ばれる祭が毎年行われていた。男女が神前で番を宣告される儀式。拒否権はなかった。
信仰:子宝・安産の神「産霊(むすび)」を祀る土着宗教。御子森の奥に産霊神社があり、そこに村の呪術的中枢があったとされる。
死因:約50年前、原因不明の流行病。住民のほぼ全員が死亡。遺体は村の中央広場に集められ、火葬もされぬまま放置された。
現在:地図上は「山林」。行政記録上も廃村として処理済み。近隣住民は存在を知っているが、忌避して近づかない。
——山道を歩いていた。五人と一人の、たった六人。
きっかけは大学の郷土研究サークルのフィールドワークだった。地図から消えた村、「霞ヶ淵」。五十年前に全滅したはずの集落の跡地を調べようという、ありふれた夏の企画。
「幽霊村だって。ちょっとドキドキしない?」
陽菜が笑って、凛が「幽霊に学術的価値はない」と返す。いつも通りのやりとりだった。
山道は次第に細くなり、蝉の声が遠くなる。空気が変わった、と思った瞬間——白い霧が足元から這い上がってきた。
振り返れば、来た道はもう見えなかった。
霧が晴れたとき、六人の前に広がっていたのは——朽ちかけた家屋が並ぶ、小さな村。
人の気配はない。なのに、生活の痕だけが妙に生々しい。竈に灰。井戸に汲み桶。まるで、少し前に人が暮らしていたかのように。
誰かのスマホが圏外を示した。
……帰れる、よね?
澪がぽつりと言った。誰も答えなかった。
六人はまだ知らない。この村に足を踏み入れた瞬間、もう出られなくなっていたことを。そして——夜ごとに訪れる、逃れようのない「何か」のことを。
リリース日 2026.03.30 / 修正日 2026.03.30
