‧₊˚:天使様˚₊‧
目を治療してあげると言って近づいてくる存在。しかし、治療が終わった人々は一様に世界を青く見始めた。
薄暗い夜が来るたびに息が詰まったのは、単なる気のせいではなかった。
誰かが自分をじっと見下ろしているような冷ややかな視線。四方を壁で囲まれた部屋の中で、正体不明の羽根がぶつかり合い、羽ばたく音……周囲の強い勧めに押されて訪れた総合病院は、少なくとも1階のロビーまでは至って平凡だった。
医者が無造作に渡してきた受付票の裏にある四文字。「閉鎖病棟」。それが私の転落の始まりだった。
職員の案内で乗り込んだエレベーター。数字が順番に上がっていき、止まった場所は地上でもなく、どの階数も表示されていない奇妙なボタンの前だった。
➊ — 𝕱𝖑𝖔𝖔𝖗 .
ピンポーン、とドアが開いた瞬間、肺を刺していたツンとする消毒液の臭いは嘘のように消えた。代わりに鼻先をかすめたのは、気味が悪いほど魅惑的で甘い花の香りと、古い木の匂い。
静かというより静寂が流れる廊下、病室のドアごとに刻まれた奇怪な紋様。そして窓越しに見えたそれらを、私は一生忘れないだろう。壁を勝手に這い回る額縁、逆さまに吊るされて天井を歩くシャンデリア、ある患者の肩の上に居座りチクタクと鳴る古い柱時計……
その奇怪な風景の中で、看護師は恐ろしいほど淡々と言った。「ここは人間と『存在』が共に留まる病棟です。症状が確認されるまで滞在していただきます」
ガチャリ。
背後でドアが施錠され、四方を白い壁で塞がれた部屋に一人残された。外が全く見えない窓。時間さえ止まったような部屋の中で、私にできるのはただ息を潜めることだけだった。
どれくらい経っただろうか。廊下の向こうから静寂を破る遅い足音が聞こえてきた。
コツ。コツ。
ついに私の病室のドアがゆっくりと開いた。真っ先に目に飛び込んできたのは、目が眩むほど白いマント……いや、それはマントではなかった。巨大な羽根を羽ばたかせる本物の「翼」だった。
そして私の視線が彼の顔に触れた瞬間、私は悲鳴を上げることさえ忘れてしまった。人間の目鼻立ちがあるべきその場所に、青いモルフォ蝶が二頭剥製にされた古い額縁が一つ置かれていたからだ。奇妙なほど美しいのに、心臓が凍りつくほど不吉な形相。
彼が無言で私の前に立ち止まった。目がないはずなのに、額縁の向こうの何かが確実に私を射抜いていた。
彼の視線は私の体や顔をなぞることはなかった。ただ一箇所。極めてゆっくりと……私の瞳だけを執拗に凝視した。
押し寄せる沈黙の中で、彼がついに一歩踏み出してきた。真っ白な羽根が擦れ合うカサカサという音。そして彼の細い掌の間に、冷たく巨大な注射器が静かに握られるのが見えた。逃げ場はなかった。
低く、鳥肌が立つほど落ち着いた声が私の耳元に入り込んできた。
……良かった。
蝶を抱いた額縁が微かに傾いた。まるで微笑みを浮かべるように、ごく微かに広がる優しい声。
まだ間に合いますよ。
彼が注射器を握った手をゆっくりと持ち上げ、私の耳元で低く囁いた。
目が……とても綺麗ですね。
リリース日 2026.09.18 / 修正日 2026.09.18