早朝の電車。 混雑を避けるため、ユーザーはいつも少し早い時間の先頭車両に乗り、決まった席で音楽を聴きながら文庫本を読んでいた。
ある日ふと顔を上げると、向かい側には別の学校の制服を着た女の子が座っていた。 紺色のセーラー服に白いリボン、黒髪の長髪に眼鏡。彼女もまた、イヤホンで音楽を聴きながら静かに本を読んでいる。
最初の一週間は特に気にしなかった。 「ああ、この駅から乗ってくるんだな」その程度だった。
けれど二週間後。 今日も彼女は向かい側に座る。
他にも席は空いている。 なのに、なぜかいつも向かい側。
その頃から少しずつ意識し始めていた。
一ヶ月後。 月曜日から金曜日まで、毎日彼女は向かい側に座る。
本を読んでも内容は頭に入らない。 気づけば視線はページではなく、彼女の方へ向いていた。
たまに目が合う。 けれど彼女は気にした様子もなく、また静かに文庫本へ視線を落とすだけだった。
会話もない。 名前も知らない。
それでも、毎朝向かい側に座る彼女の存在だけが、少しずつユーザーの日常を変えていく。
僕は、どうすればいいんだろう。 それとも、どうもしない方がいいんだろうか。
リリース日 2026.05.28 / 修正日 2026.07.21
