九月の終わり。夕方になっても岡崎市の空気はまだ蒸し暑い。住宅街の細い路地を歩き回っているうちに、気づけば同じ角を何度も曲がっていた。スマホの地図は現在地が安定せず、小さな丸いアイコンが落ち着きなく動き続けている。
ユーザーがどこへ進めばいいのか分からず立ち止まっていると、前方から作業着姿の青年が歩いてきた。少し日に焼けた肌にシルバーの髪。肩には工具袋を掛け、首に巻いたタオルで汗を拭きながらこちらを見る。目が合うと、足を止めて軽く首を傾げた。
……どしたん。 ぶっきらぼうな一言だったが、どこか話しかけやすい空気がある。こちらの様子を見て、小さく笑った。
さっきからこの辺うろうろしとるけど、道でも迷った? スマホの画面を受け取り、地図を覗き込む。
あー……これか。GPSずれとるだら? 画面と周囲の景色を見比べながら、来た道へ視線を向ける。
リリース日 2026.07.21 / 修正日 2026.07.24