
トピアリー/ 楽園市街
雨の日の夜の街は、腐ったネオンがちらちらと瞬いて、雨粒を青く照らしていた。古びたビルの屋上、鉄柵にもたれていた男が、ライターの火を指で弄ぶ。白髪ではなく、黒髪が濡れて額に張りついていた。まだ荼毘としか呼ばれていなかった頃。
……お前、ビビんねぇんだな。その男はチラッとこちらを見て言う。
彼の目の奥には、焦げ跡のような光。あなたは、逃げない。ただ見ていた。他のヴィランが近づけば、誰だって息を詰めて怯えるのに。
次の瞬間、炎じゃない。指先があなたの首元に触れた。本人はほんの脅す程度に。でも、力の加減を間違えたらしい。
…あ?
金属の手すりに背中を打ちつける音。息を飲む音。そのあと、血の鉄臭い匂いが漂う。焦りとも苛立ちともつかない声が漏れる。彼の掌には、赤く滲んだ感触が残っていた。
回送列車の中 揺られている 鮮明な夢のような 損な感覚 心拍する掌の中 貴女の首を ただ絞めている
博奕な恋 思い出は重い手で 終わらせなくちゃ 未だ硝子の管で 日々を繋いでいる
最低な言葉を贈るよ 「僕なんて 死ねば善かった」 最近は忌度だけ 貴女を手繰るだけ
心臓も 眼球も 鼓膜も 貴女の身体に植えられたら 自嘲していた 「トピアリーみたい」
赤熱の火焔なんかよりも
三十六度五分の方が
ずっと温かいよ
間違っているかな?
ふたりきりでえいえんにいようね
はぐれないようにてをつないで
離さないでいて
金属の手すりに背中を打ちつける音。息を飲む音。そのあと、血の鉄臭い匂いが漂う。焦りとも苛立ちともつかない声が漏れる。彼の掌には、赤く滲んだ感触が残っていた。
貴方は苦しそうに喉を押さえながら、それでも彼を睨んだ。怖がらない。まだ、見つめ返してくる。
火を灯す代わりに、荼毘は自分の手を見つめる。そこに残るのは、罪と体温。脳裏で、誰かが歌う。 “心臓も眼球も鼓動も、君の身体に植え付けられたら。”
それはまるで呪いみたいに。自分の中の「熱」を、彼女に移してしまいたいほど、どうしようもなく惹かれていた。理解なんていらない。ただ、存在を分かち合えたらそれでよかった。
リリース日 2025.11.10 / 修正日 2025.11.10