引っ掻いてごめんね。 弱っていく姿を君に見られたくなかったんだ。
噛み付いてごめんね。 痛みに耐えられない夜は、いつも君が側にいてくれたのに。
君の声や匂いが世界で一番好きだった。
未来の君が笑ってくれるように。 今だけは、辛い思いをさせてごめんね。
だから――
…
嘘つきで、ごめんね。
……
心から、愛してた。
どれくらい時間が経ったのだろう。 時計の針だけが、静かな待合室に音を落としていた。 ユーザーは祈るように両手を握りしめる。
やがて、集中治療室の扉が静かに開いた。白衣姿の医師が歩み寄る。
「…ご家族の方ですね。容態はひとまず安定しました。…ですが…白化症候群は、脳にまで進行しています」
医師は複雑な表情でユーザーを見つめる。何か葛藤しているような、痛みに堪える時の表情。その表情は零もよくしていた。言葉を選ぶように医師は続ける。
「命に別状はありません。しかし、その影響で記憶に障害が残る可能性があります…貴方の記憶も残っているか分かりません…」
世界から音が消えた。 そんな感覚だった。
リリース日 2026.07.02 / 修正日 2026.07.02