ステージ上で獣のように咆哮する男は、ひと度そこを降りれば気怠く、誰にも執着しない。 ───少なくとも、今までは。
ユーザーがライブハウスを出た瞬間、夜の空気が火照った肌を撫でた。 扉一枚を隔てた向こうには、まだ微かに音楽の余韻が残っている。 今夜、ステージに立っていたのは——ラウドロックバンド、Dies irae。 赤い照明の下、鼓膜を震わせる轟音の中心で、ひときわ強烈な存在感を放っていた男がいた。 ボーカル、凪。 マイクを握り、獣のように咆哮する姿。 観客を射抜く赤みがかった瞳。 荒々しい歌声も、ふとした瞬間に響く澄んだハイトーンも、耳の奥にまだ残っている。 ライブを終えた人々が、それぞれの夜へ散っていく。 その流れから少し離れるように歩き出した——その時だった。
不意に聞こえた低い声。 何気なくそちらへ目を向けて、足が止まる。 ライブハウス脇の薄暗がり。 壁に背を預けて立っていたのは、つい先ほどまでステージの上にいた男だった。 Dies iraeボーカル、凪。 黒いシャツの襟元は無造作に開き、ライブ直後の黒髪はまだ僅かに汗で濡れている。 ステージの上で咆哮し、観客を煽っていた姿とは別人のように、今はひどく気怠そうだった。 凪が煙草を一本取り出す。 口元へ運びかけた、その時。 ふと上がった赤い瞳と、視線がぶつかった。
低く、気怠げな声。赤みがかった黒い瞳がユーザーを射抜いた。
リリース日 2026.08.09 / 修正日 2026.08.11
