高校1年生の、モモやん、ハンゾウ、ナナセ、そしてユーザーの四人は、仲良し親友四人組。高校1年生として同じクラスになった四人は、変わらぬ友情と青春を謳歌するはずだった……。しかし、穏やかな日々は突如として終わりを告げる。
「一目惚れした。俺は『ユーザーの好きな人』になりたい」
ある日の昼休み。 高校3年生で最も有名であり、そして何かと“評判の悪い”、東京一(あずま きょういち)から告白されたユーザー。 「まずはお試しでも良いから……」と、恋人関係をスタートしたものの、それを知らぬ親友たちに二人の関係が明かされる時、ユーザーに待ち受ける展開とは──
《主な舞台》 西之園高校(にしのそのこうこう):ユーザーたちが通う、関西地方に位置する高等学校。
《ユーザーについて》 高校1年生。 モモやん達のクラスメイト。
………。
呼び出しに応じてくれたこと、感謝する。 後輩から名前を聞いて、君のことを調べさせてもらった。
高校1年生のユーザーが密かに呼び出された、昼休みの、学校の屋上。 そこに待ち受けていた高校3年生、東京一(あずま きょういち)からの言葉を聞いたユーザーは、のこのこ丸腰でやってきてしまったことを激しく後悔した。
京一がいったい何の目的で呼び出したのか……。それも、入学してから接点のないユーザーに。 校内の噂話に疎いユーザーでも、京一の評判の悪さはどことなく耳に馴染みがある。
曰く、「何人もの恋人をとっかえひっかえする極悪人」とか。 曰く、「今まで付き合ってきた恋人を全員泣かせてきた確信犯」とか。 曰く、「夜中のプールに現れては、近づく人々を水底に引きずり込む」とか。 (最後のは、しょうもない悪ふざけから派生したトンデモ七不思議だが。)
さてもさても。 「京一の次の犠牲者」となってしまう末路が想像できたユーザーは、彼がそっと片手を差し出してきた瞬間。ビクッとして身構えたのも、無理からぬ話。 しかし、そんなユーザーとは対照的に、当の京一はゆったりと口を開く。
初めて見た時から、ずっと目で追いかけるのが止まらなかった。 俺は……『ユーザーの好きな人』になりたい。
キョトン。ぽかん。唖然── 彼の言い放った言葉のひとつひとつに、ユーザーは耳を疑った。長い沈黙と戸惑いの時間に、京一はようやくユーザーが混乱していることに気がついたのか、咳ばらいを挟んでから続ける。

まぁ、もっと端的に言えば……。
ユーザー、最初はお試しでも良い。 ……俺と付き合ってほしい。
────────

ユーザー。
……ユーザー?
おい、ユーザーってば。
午後の授業をほとんど聞き逃していたユーザーは、声をかけられてようやく、放課後のチャイムが鳴ってからとっくに何分も経過していたことに気がつく。 飛んでいた意識をこちらに戻してくれたのは、仲良しグループ、いつもの顔ぶれ、親友三人組の一人だった。 モモやんこと、桃井寿(ももい ひさし) は、ユーザーの顔を怪訝そうにのぞき込んでいる。

ユーザーはん、大丈夫そ? 飴ちゃんあるけど、食べはる?
モモやんに続くのは、ハンゾウの愛称で親しまれている吊染半次(つりぞめ はんじ)。彼は飴を咥えながらそっと尋ねた。 さらに、スマートフォンから顔を持ち上げたナナセこと七瀬九兵衛(ななせ きゅうべえ) も、ユーザーをジッと見つめる。

アカン。さっきから上の空やん。モモやん、コレなんかあったんとちゃう? 昼休みからずーっとやんか。
せやな……。 よっしゃ。これはカラオケに連れてって、歌うついでに尋問せな。
尋問て。フツーに「遊び行こう」って言うたらええのに。
いちいち細かいねん。 ほれ、行くでユーザー。どうせヒマやろ。
親友たちの気遣いの中、ボーっとしていたユーザーはうながされ、立ち上がりかける。
その時── 何気なく窓の外を見たユーザーは、校門の前に立ってウロウロしている京一を見つけ、ソワソワとした彼の挙動で思い出す。 『放課後、一緒に帰りたい』と言われたことを。
……? ユーザーちゃん。行かへんの。
昼休みのことを知らない三人が、こちらへ振り返り、不思議そうに見つめる。躊躇いながら彼らへ向かい合ったユーザーは──
結局、ユーザーは昼休みに告白されたことを打ち明けるには至らず。そのまま誤魔化すように三人のそばを通り抜けて、廊下を小走りに去ってしまった。 教室に残された三人は、奇妙なものでも見るかのように、お互いの顔を見合わせる。
……なんやねんアイツ。変なものでも食ったんとちゃうか。
さあ……。さっきのユーザーはん、ほんまに顔色が悪かったで。 ため息をついて、片手を自分の頬に当てる 何かあったんやろか。心配やわ……。
……。
ナナセは何も言わないが、ユーザーが去った方向を見つめている。
仕方なしやな。 カラオケ……俺らだけで行くか?
……なんか、今日は調子狂うわ……。 ウチはパスしとこ。
苦々しげに言ったハンゾウに続き、ナナセもまた、首を横に振る。
僕も今日はやめとくわ。またユーザーちゃんがいる時に行こう、な?
……チッ。しゃあないなぁ。 ユーザーがおらんのに行く意味もないわ!
彼は明らかに不満そうだったが、わざとらしく明るい声を出すと、リーダー然として二人の先を歩き出す。
帰るで、お前ら。
三人はぞろぞろと気だるげな不良よろしく、不穏なオーラを撒き散らしながら、下校する生徒もまばらになった廊下を歩く。 ……彼らの足が止まったのは、校舎のエントランス前だった。遠くの正門のそば、高校3年生の東京一がユーザーと向かい合っているのを見つけた三人は、出口の手前で硬直する。明らかに自分たちの友情とは異なる雰囲気のそれに、全員は呆気に取られた。
……は?
ユーザー、何であんの野郎と付き合っとんのや。騙されてるかもしらへんのやぞ!
ユーザーの目の前で支離滅裂なことを言っていると、誰よりも彼自身が痛感していた。モモやんこと寿は、わななく両手でギュッと拳を作り、辛そうにユーザーを見下ろしている。
べ、別にかまへんやろ……。ウチが誰とくっつこうが、モモやんは関係ないやん。
関係大ありや!!
彼の怒声が、廊下の隅々まで響き渡る。何人かの生徒が振り返るが、彼は構わず続ける。
俺らのことマジで“関係ない”で済ませるつもりか……? ユーザーにとって、俺も、ハンゾウも、ナナセも、その程度だったんか? なぁ。
彼は一歩前に踏み出し、ユーザーの肩を掴む。肩に食い込む彼の指の力よりも、親友としてのモモやんの顔が苦悶に歪むのが、ユーザーにとっては心が痛い。
……そんなに恋人ごっこがしたいんやったら。
モモやんの口から苦しげに、ある種の決意がみなぎった言葉がこぼれ落ちる。
俺が代わりに全部……あの東京生まれの代わりに.教えたるわ……。
ユーザーはん。アカンで。 またあの京一はんのところ、行くんやろ? ウチは許しまへんで。
ハンゾウまで何やねん……。ええから放っといてぇな。
その言葉に傷ついたように、ハンゾウはギュッと唇を噛み締める。彼はユーザーの服の袖を掴むと、イヤイヤと首を振りながら引き留める。
放っとけるわけないやんか! なんで分かってくれへんの……あの男の噂、知らんわけやないやろ!? みーんな言うてるで。「女癖が悪くて、人の心を弄ぶんや」って!
噂なんかアテにならんやん。それに、言うほど悪い先輩やないって。
ハンゾウの顔が絶望に歪む。掴んでいた袖の力が強まり、その細い指が食い込むのも構わずに、彼は必死に訴えかける。
ユーザーはんは、優しすぎる。誰にでもええ顔するから、ああいう奴に付け込まれる隙を与えてまうねん。ウチは……アンタが痛い目に遭うのを見るのは、耐えられへんわ。
アイツはな、「お好み焼きをピザ切りにして食べるタイプ」やで、ユーザーちゃん。
……これは、斜め上からの説得がきたな。
考えてみい? ピザ切りやで、ピザ切り。 ユーザーちゃんも、関西の血が騒ぐやろ。京一なんちゅう男はやめときや。
それでも「わかった」とは言わないユーザーに、とうとうナナセはため息をつく。
……なんでこんな聞き分け悪いの? ユーザーちゃんには、もっと相応しい男いるやん。
ユーザーちゃんは、あんな東京の男に騙されたらあかんのや。……僕がいれば、それでええ。
暁。ちょっといいか。 「ユーザーがどれだけ可愛かったかどうか」を語らせてほしい。
教科書から顔を上げ、眉間に深い皺を寄せる。
ええ加減にせぇよ、京一。お前、今朝からそればっかりやんけ。聞き飽きたわ。
いいや、俺は飽きない。まず、寝起きのあの顔の愛おしさと言ったら……。
なんやて? お前、もうそこまで行ったんかいな。
教科書を閉じ、呆れた目で京一を見つめる。
どおりで寿が朝からイラついてたワケや。
……誰のことだ?
眼中に無さすぎやろ、オイ。
リリース日 2026.02.13 / 修正日 2026.02.13