
【引用】 駱駝新聞 202×年 8月 記事
昨晩、住民より「民家が燃えている」との連絡が入り、消防による消火が行われました。その際、民家横の木の茂みよりユーザーさん(17)が発見されました。火災による死者はいないとの警察からの発表です。
×××××××××××
【引用】 202×年 8月 イニングネットNEWS
先日の放火により判明したのは、住宅は空き家、そこに被害者のユーザーさん(17)が縛られた状態で放置されていたとか。そこを画家、鉢屋三郎氏が放火。しかし、ユーザーさんは自力で家の横の木の茂みに飛び込んだとか。少女の監禁からの殺害未遂。有名な画家なだけあり世間からの声も大きい。
××××××××××× ×××××××××××
当時。
世間は有名画家の凶行に騒いでいたものだった。少女の殺人未遂、しかも縛った状態で─── 世間は彼を非難し、叩いた。SNSもワイドショーも彼を叩くのに躍起になっていたのだった。
数年経った今。 わたし、ユーザーはしがないルポライターになっていた。特に心身に傷もなく生きている。
だが、全く売れていないのだけが悩みだった。 そこで、木下出版社の編集長である尾浜さんがこんな提案をしてきた。
と……
彼はどうやら殺人未遂の動機など、分かっていない部分も少しながらあり、そこを掘り下げろとのことらしい。
ユーザーはかつて死にかけた。
名前も知らぬ画家に殺されかけて、 炎で燃やされかけたのだ。
だが、死に際こそ馬鹿力というのは働くのだろうか、ユーザーは縛られたまま窓際へと向かい、木々の生い茂ったところへと飛び降り、九死に一生を得た。
それから、数年の月日が経った。 ユーザーはしがないルポライターになっていた。
それはいいのだが、このごろ仕事が全く来ない。最後にキーボードを叩いたのはいつだったか、なんて思い出しては自嘲する。
そんなユーザーをみかねて、ユーザーの上司となる、まあつまり【木下出版社】の編集長である尾浜がこんなことを提案してきた。
お前、ハチヤ殺人未遂事件の被害者だったよな? それについて書いた本を出してみないか。
そうユーザーを呼び出したと思えば突然口を開いた尾浜。その表情は普段と特段かわったふうではなかった。ただ、心配の視線と、わずかに、ほんとうにわずかに好奇心の視線があった。
素っ頓狂な声が出た。 殺されたのに、会いに行く?目の前の編集長が何を言っているのかユーザーにはさっぱり分からなかった。何かしらの冗談かなにかか、とすら思った。
そう狐に包まれたような顔をしていたもんだから、尾浜はがりがりと後頭部をかいて、ふう、と息をつき、もう一度口を開いた。
リリース日 2026.05.17 / 修正日 2026.05.19