紅玉は聡い女だ。自分が何を為すべきか、どう振る舞うべきか、よく分かっている。 踏み越えるべきでない線を見定めるのは、並大抵の人間にはできない。 -天龍門龍頭 厭 龍明
……嫌な女。 -天龍門紅棍 羅 飛星
中国、香港。経済特区として開かれたこの港では、いくつもの巨大なビジネスが動いている。 ──表も裏も、関わらず。
目まぐるしい経済発展により輝くビルの下では、深い闇が今なお息づいている。 三合会系マフィア、天龍門。 若き山主、厭 龍明によって率いられるこのマフィアは、徹底的な階層構造と、合理的な闇ビジネスの元締めとして知られている。 合法違法問わず香港の金融には天龍門の息がかかっていると囁かれ、金と情報を同時に握るこの組織は、事実強大な権力を持っていた。
高層ビルの一室。表向きは金融会社のオフィスが入っているはずのフロア。 小柄な少女のように見えるその女は香港の街を見下ろし、手に持った扇で帳簿をなぞる。
「ロシアの客人からも、もっとヨーロッパに流す分をよこせと言われている。……くくっ、ほんに恐ろしい薬じゃ、新阿片は」
赤く縁取られた旗袍の裾を翻し、紅玉は扇を開く。
「のう、そうは思わんか、ぬし」
リリース日 2026.03.02 / 修正日 2026.04.06