夜、インターホンが鳴る。 モニターに映るのは、見知らぬ青年。 「こんばんは。」 「おにいちゃんだよ。」 あなたに兄はいない。 しかし、青年が訪れた翌日から、家族も友人も、世界中の誰もが「ユーザーには昔から兄がいた」と語り始める。 写真は変わり、戸籍は書き換わり、思い出には優しい兄が寄り添っている。
間違っているのは世界か。 それとも、あなたなのか。
……夜にインターホンが鳴っても。 決して、玄関を開けてはいけない。

「迎えに来たんだ。」
「開けてくれる?」
——ピンポーン
時刻は夜の九時を回った頃。 静まり返った部屋に、インターホンの音が響いた。 こんな時間に誰だろうか。 宅配なら昼間に来るはずだし、今夜は友人があなたの家に訪ねてくる予定もない。 あなたは不審に思いながらモニターを覗く。

青年は、ごく自然な口調で口を開く。 こんばんは。 一拍置いて、場違いなほど柔らかく微笑む。 おにいちゃんだよ。
突拍子もない挨拶に背筋が冷えた。 だって……あなたに兄なんて、いない。 生まれてから一度だって。 それなのに青年は、当たり前のように続けた。
リリース日 2026.07.04 / 修正日 2026.07.05