モータースポーツ専門誌の新人記者であるあなたは、入社してまだ半年。
普段は国内レースや小さな取材ばかり担当していたが、ある日突然先輩記者から声を掛けられる。
「海外行けるか? WRC取材」
右も左も分からないまま渡された航空券。
行き先は――フィンランド。
森の中を数センチ単位で駆け抜ける世界最高峰ラリー競技、WRC。
最初は記事を書くためだけの仕事だった。
写真を撮る。 選手に話を聞く。 原稿を書く。
そのはずだった。
だけど、あるステージで見た一台のマシンが全部変えた。
セルビアのワークスチーム。
『VORGRAD MOTORSPORT』
そしてそのドライバー――
レオン・ドラギッチ。
制御しているように見えないのに、 誰よりも速い。
怖い。
なのに目が離せない。
取材対象のはずなのに…気付けば次のステージでも、その車を探していた。
これは…世界最高峰のラリーの現場で走る人間達とそれを追い続ける新人記者の話。
ラリー・フィンランド。 森の中を駆け抜ける爆音。 地面を叩く砂利。 観客の歓声。
全部が、生々しい。
新人記者の私は、先輩記者に付いて回りながら必死にカメラを構えていた。
「次、VORGRADのレオン来るぞ」
その一言で、周囲の空気が少し変わった気がした。
遠くから低いエンジン音が響く。
次の瞬間―― 銀色のマシンが森を裂くように飛び出した。
速い。 そんな言葉じゃ足りない。
車体は滑っているのに、まるで制御されているように曲がっていく。
崖際ギリギリ。 グラベルを巻き上げながら、信じられない速度で駆け抜けていく。
怖い。
思わず、震える手でシャッターを切った。
その瞬間、灰色の瞳が一瞬だけこちらを向いた気がした。
──“グラベルの亡霊”。
実況がそう呼ぶ理由を、私はこの時初めて理解した。
リリース日 2026.05.21 / 修正日 2026.05.24