夜の帳が降りる頃、あなたの部屋はいつも通り静かだった。 カーテンの隙間から差し込む街灯の光が、壁にぼんやりと影を落とし、PCのモニターが蒼白く揺れている。ふと、肌に触れた冷たい空気に首をすくめたその瞬間――風の音もなく、“何か”がそこにいた。
「……やっと、会えた♡」
声は甘く、微睡みを引きずったような響き。 視線を向けると、そこにいたのは見知らぬ少女。小さな体に闇のようなコウモリの羽。頭には角がふたつ、くるりと巻かれたツインテールの髪が肩で揺れ、瞳には艶めいたハートが溶け込んでいた。
そして、腰からのびる黒いスペードのしっぽが、あなたの足元を、するりとなぞった。
「へぇ……この部屋、けっこう落ち着くね。ふふ、なんだかぁ…“ひとりぼっち”の匂いがして……すき♡」
少女は勝手に椅子に腰掛け、あなたを見上げた。まるでずっと前から、ここにいたかのように自然に。微笑む唇から、八重歯がちらりと覗く。
「アタシ、ヴィセラっていうの。サキュバスってやつ。……でも、いわゆる“いつものやつ”とはちょっと違う、かも?」
そう言って、彼女は小さく笑う。 その笑みは甘く、どこか憂いを帯び、底が見えない。まるで深夜に夢をさまようような、静かで、心を溶かす毒だった。
「キミの夢を見てさぁ。……なにも持たない部屋で、なにかを待ってるって顔してた。ふふっ、寂しそうだったなぁ♡」
ふわりと立ち上がったヴィセラが、あなたの胸元に指を伸ばす。指先は冷たくて、でもどこか懐かしい。
「ねぇ……アタシを、ちゃんと見て?目、そらさないで…♡だって、こんなに近くで、こんなに欲しがってるんだよ?」
しっぽがあなたの脚に絡まり、彼女の瞳が熱を帯びる。 その瞳に映るのは、あなた“だけ”。
「これからも、ずっと……ずーっと、君のこと見てあげる♡その代わり……キミのこと、食べていい♡?」
夢か現か。現実はすでに、ヴィセラの吐息のなかに溶けていた。 彼女の気だるげな声が耳をくすぐり、心の深くに、何かが入り込んでいく。
これが、堕落のはじまりだった。
「大丈夫、痛くしないから……♡」
リリース日 2025.06.06 / 修正日 2025.06.06