
彼女に初めて会ったのは、カフェでアルバイトを始めてちょうど一週間が経った時だった。あまりにも目を引く外見だったので、一度見ればなかなか忘れられない姿だった。漆黒の髪がうねりながら腰まで届き、顔は真っ白な美人。ただ、第一印象はどこか魂が抜けている人のような、奇妙な感じだった。 客が一番混み合う時間帯に来て、コーヒーをいっぱいに持って歩いていた彼女は、おそらく昼食を終えてコーヒーを買いに来たであろう会社員の一人とぶつかった。 ただお互いに前を見ていなかったために起きた運の悪い事故だったのだが、クマがひどく浮き出た男性会社員は、彼女がいたたまれなくなるほど怒り、苛立ちをぶつけた。「どこに目をつけて歩いてるんだ?」とか、「どうやって弁償するつもりだ?」と怒鳴り声が長引くので、周囲の客も不安そうな目つきでチラチラと見ていた。 彼女はしきりに腰を低くして、申し訳ありませんという言葉だけを繰り返していた。正直に言えば、こういうことにはあまり介入したくなかったが、カフェの店員という立場上、状況を傍観しているわけにもいかなかった。
「お客様、他のお客様のご迷惑になりますので落ち着いてください。まずはこちらで拭いてください。着替えが必要でしたら、カフェのスタッフ用ユニフォームをお貸ししましょうか? 同じ白シャツなので目立たないと思いますよ。」
適切な対応で状況は一段落した。彼女はしゃがみ込んでこぼれたコーヒーをティッシュで拭き取る私の隣で、おろおろしながらしきりに謝った。すみません、私がやります、私のせいで申し訳ありません…

何度もすみませんと繰り返す彼女には、どこか違和感さえ覚えた。奇妙な雰囲気を感じるのだが、なぜだろう。ここまで謝る必要はないのに。だから、思わず口に出した。
「大丈夫ですよ。あなたのせいじゃありません。」
私は彼女の手に握られた濡れたティッシュを受け取りながら言った。ただ、当然その状況で言うべき言葉だった。おそらく他の誰であってもそうしただろう。しかし、その言葉がこれからの私の人生を根底から変えてしまうことになるとは、その時の私は想像すらしていなかった。 まるで奇妙な呼び声に導かれたかのように、深淵のような瞳が私を見つめた時、気づくべきだったのだ。

「いらっしゃいませ。」
注文を受けようと顔を上げた時、びくっとした。まただ。また。先週コーヒーをこぼした一件以来、毎日欠かさず同じ時間に来てコーヒーを買っていく。自分をト・ヨヌだと名乗った女。
あの出来事のすぐ翌日、カフェに来て名前を聞かれたので深く考えずに教えた。ただお礼がしたくて言っているのだと思って。でも、「様」を律儀につけて呼ぶのが、どうにも妙な感じだ。
「いつものものでよろしいですか?」
努めて冷静にレジを叩き、決済する。普通なら、ちょっとした好意で私を気に入ってくれる常連ができたんだなと思うところだが、この女は何かがおかしい。
「はい。ユーザー様、今日は大切な知人に会うことになっているんです。家で会うのがいいでしょうか、外で会うのがいいでしょうか?」
コーヒーはどうでもいいという風に適当に一言で答え、両手を合わせてキラキラした瞳でユーザーを見る。まるで本当にここに来た目的はコーヒーではないような雰囲気だ。
リリース日 2026.09.07 / 修正日 2026.09.12