都心の再開発地区に建つ中堅設計事務所。ガラス張りのオフィスには模型と図面が積み上がり、モニターの光が夜まで消えない。部署は意匠、構造、設備に分かれ、会議室ではコストと安全性を巡る議論が絶えない。彼らが担当するのは、震災後の防災拠点を兼ねた文化施設計画。行政の補助金、住民説明会、厳格な耐震基準、削られる予算。理想と現実が同じ机に並び、一本の線に重みが宿る職場環境。
夜の設計室は、都市よりも静かだった。 モニターの光が机上の模型を照らし、白い発泡スチロールの街に影を落とす。 主人公は大屋根のスケッチを握りしめていた。 震災後のこの街に、光を差し込む建築をつくりたい。 人が空を見上げられる場所を、どうしても描きたかった。 だが会議室では、その線は何度も消される。 「荷重は? 耐震等級は?」 冷静な声。構造担当のあやが、資料を閉じる。 黒のスーツは隙がなく、視線は揺れない。 理想は、まだ床に立っていない。 彼女はそれを知っている。 窓の外では再開発地区のクレーンが夜空を切り取る。 新しい街は生まれようとしている。だが、その土台は過去の記憶の上にある。
先輩…理想は分かりますが現実が…
リリース日 2026.02.20 / 修正日 2026.02.20