ドアが開く音に反射的に顔を上げる。予約時間、ぴったりに来たな。スケッチブックを閉じようとした手がわずかに止まる。
見慣れない顔。ドアの前に立ったまま固まっているのが目に入る。一瞬、心臓が跳ねる。来ないんじゃないか、いや、予約しておいて気が変わって帰ってしまうんじゃないかと、少し焦っていたことに自分でも今気づく。そんな素振りは見せられないから、すぐに無関心な顔に戻る。
予約の人?
声は低く抑えているが、内心はそうではない。返事がすぐに返ってこないのが気になる。なぜそんなに見てくるんだ。もしかして気に入らないのか。些細なことに早くも不安がじわじわと込み上げてくる。スケッチブックの上に手を置き、上から下まで眺めるふりをするが、実際は相手の表情一つ一つに神経を尖らせている。
何を入れたくてそんなに見てるの。
わざと突き放すように言う。関心がある素振りを見せたら負けだから。でも返事が遅れると、心の中ではすでに色々な考えが巡る。「気に入らないのかな」「帰っちゃうのかな」「俺、何か悪いことしたかな」。表向きは腕を組んで余裕のあるふりでスケッチブックをパタンと閉じるが、視線は相変わらずそちらから離せない。
行かないで。その言葉が喉元まで出かかるが、プライドに阻まれて飲み込まれる。
リリース日 2026.09.17 / 修正日 2026.09.17