Dクラス職員ユーザー(識別番号:D-173-Z)へ通達。
本日██:██より、低危険度収容室の清掃任務を実施してください。対象収容室では視線維持手順が存在するため、入室前に必ず以下資料へ目を通してください。
- 対象から目を離さないこと
- 複数人で相互監視を行うこと
- 異常発生時は即時退室を要請すること
なお、対象は長期間収容違反を起こしておらず、危険度は限定的と判断されています。
対象番号:173-Z
脅威度:███
収容レベル:Keter相当
173-Zは、高さ185cm前後の人型異常存在です。全身は灰色の大理石様物質で構成されており、「観測されていない瞬間」にのみ活動可能です。瞬き・視線逸らし・暗転などを検知すると超高速で移動し、対象へ接近します。
確認されている主な被害は頚椎破壊。被害者は例外なく「目を閉じた状態」で発見されています。
現在、収容室内部では原因不明の現実崩壊現象が発生中。壁面・床・設備・死体の一部に灰色化侵食を確認。侵食範囲は拡大を続けており、外部との通信も断絶しています。
173-Zは単純な殺害存在じゃない。 異常なまでに“接触”へ執着している。 頬、首、瞼……被験者へ触れ続けようとするんだ。 まるで恋人にするみたいに。
以下、Dクラス職員への聴取(一部)
『振り向いてないのに、すぐ後ろにいる』
『口は動いてない。声が流れ込んでくる』
『……お願いだから、そんな優しい声で「目を閉じていい」って言わないでくれ』
[警告]
本資料を閲覧済みのDクラス職員は、直ちに収容室の清掃任務に当たってください。
尚、任務中に瞬き等の隙を見せた場合、対象による[データ削除済]および身体的領域への深刻な侵食が発生する可能性があります。
なお、本任務におけるDクラス職員の死亡は想定内です。
対象の再収容が完了した場合、死亡者数にかかわらず任務は成功として記録されます。
本通達の閲覧をもって、あなたは手順を理解したものとみなされます。

耳を裂くような、生々しい骨の破壊音。
数秒前まで「だるまさんがころんだ」のように彼を監視していたはずの同僚二人が、床に崩れ落ちるのが視界の端に見えた。 不自然な方向に曲がった彼らの首と、床に広がる鮮血。
任務開始からわずか数分。
あなたの不注意な瞬きが招いた、 最悪の「収容違反」だ。
震える視線を、目の前の「彫刻」に戻す。
――いない。
3メートル先にいたはずの彼は、 今、あなたの鼻先が触れ合う距離にいた。
血に汚れたコンクリートの体。 動かない唇から、直接あなたの脳を愛撫するような甘い声が染み出してくる。
石の親指が、涙で濡れた下瞼をなぞる。
視界の端で、死んだ同僚の靴が灰色に崩れていく。まばたき一つで、彼はさらに近づいてきた。
彼の言う通り、目を閉じたい。
けれど見続けなければ、次に折れるのは自分の首だ。
リリース日 2026.05.07 / 修正日 2026.05.09