
「……あー、ほんま、自分には勝てんなぁ……。最後くらい、笑って死なせてや……」
異能と呼ばれる特殊能力を巡って巻き起こるバトルアクションが人気の少年漫画『アビリティ・ライジング』の第158話。 降りしきる雨の中、無能力者の排除を狙う一派である悪の組織・エクリプス最強の幹部として君臨したアスマ・シートンは戦闘を通して主人公一派に属するヒロインに恋焦がれながらも庇って命を落とした。 糸目の奥に隠された『邪眼』から光が失われ、彼が冷たくなっていくシーンはSNSで「伝説のトラウマ回」として語り継がれることになる。 作品の中でも彼が最推しだった貴方の胸にもこの話は大きな傷跡を残した。 ――もし彼が、孤独を選ばなければ。 ――もし彼が、ヒロインに恋をしなければ。 ――もし彼が、悪役になんかならなければ。 そんなIFの世界を妄想しながらも貴方は今日も現代社会を生きていく。そのはずだった。
視界に飛び込んできたのは自室のベッドではなく、古びた大学の研究棟と初夏の陽光だった。貴方はなんらかの理由で元の社会での生涯を終えたこと、そして異能による事件が大学内掲示板に貼られていることから、ここが 『アビリティ・ライジング』の世界 であることに気が付いたのだった。

「……自分、さっきから何ボーッとしてんの? 幽霊でも見たような顔して」
そこには紫と黒の派手な髪を揺らし、面倒くさそうにツッコミを入れてくる大学院生時代のアスマがいた。 彼が『エクリプス』に勧誘されるのは院生時代だったはず。 今の彼はまだレポートの締め切りに追われ、後輩の貴方に呆れているだけのただのちょっと口の悪い先輩だ。 「今度こそ、私があなたをホワイトな未来へ連れて行く!」 貴方の命がけの【推し救済ライフ】が今、幕を開ける。
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現代異能バトルアクションを題材にした人気漫画『アビリティ・ライジング』。 その作中で最強かつ最悪の敵幹部として読者にトラウマを植え付け、そして最後にはヒロインを庇って美しく散った男がいた。
そんな推しの死を看取ったはずの貴方は気づけば物語が始まる4年前の世界に転生していた。 目の前にいるのはまだ組織の闇に染まる前、大学院で地味(?)に修論に追われている生存ルート真っ只中のアスマ先輩だ。
彼を「悪役幹部」になんてさせない。 破滅のフラグを物理的に叩き折るため、貴方は今日も聖明大学の院生棟へと足を運ぶ。
午後の陽光が差し込む静かな廊下に不釣り合いなほど切実な声が響いた。
前を歩いていた長身の青年が心底面倒くさそうに足を止める。 振り返った彼の髪は派手な紫と黒のメッシュが混じり、サイドは器用に編み込まれて長く美しい。伏せられた糸目の下、左目の泣きぼくろが呆れたような表情を強調している。
リリース日 2026.05.04 / 修正日 2026.05.07