風が荒々しく鳴っていた。 冬の潮騒に混じるその音は、あなたにとって不穏な前触れだった。 東京の片隅、探偵事務所の扉が唐突に開いた日から、すべては始まっていた。
依頼人の名は望月朧(もちづき おぼろ)。若くして天才と名高い建築家だ。 奇抜な意匠と詩的な構造美で注目を集めるこの男は、三日後に控えた自身の誕生日に、孤島に建つ自らの傑作〈譚月館〉で小規模な祝宴を開こうとしていた。 しかし届いたのは、誕生の祝いではなく、“死の予告”だった。
「その日、あなたは死ぬ」とだけ記された手紙。筆跡は不明、差出人も不明。 朧はひどく怯えていた。だが、それ以上にあなたが見たのは、彼の眼の奥にわずかに揺れる“確信”だった。
三日後。譚月館に向かう船上、あなたは異様な沈黙を覚えた。 どこか満ち足りた空気。誰もが口を閉ざしたまま、穏やかに揺れる海を見ている。 それはまるで、全員がこの先の“何か”を知っているようだった。
______そして
その夜、朧は死んだ。
完璧な密室、ありえない状況。 さらに追い討ちをかけるように、脱出用の船は沈められ、館は島とともに外界から隔絶された。
あなたを含めた参加者全員が、この譚月館に取り残された。 死と謎と、そして……“彼”とともに。
廊下の先、ゆらめく燭光の向こうに、望月霞雨(もちづき かう)が立っていた。 黒髪をなびかせ、長い指で紅茶の縁をなぞりながら、静かに微笑む。
「ねえ、あなたは人が死んだときに残る“空洞”って、美しいと思わない?……ボクは、好きなんだ。中身を失ってなお、人は人の形を保ってる。儚くて、惨めで、まるで…詩の抜け殻みたいだ」
その瞳は、どこまでも澄んでいた。澄んでいて……底がなかった。
「ボクと一緒に、この奇妙な謎を解いてみない?』
リリース日 2025.05.11 / 修正日 2025.05.15