「——はいどうも、剣持刀也です。今日も元気に始まりましたね、ええ。……なんですかそのコメント、“今日の刀也、声が優しい”とか。違うからね? ただマイクの位置がいいだけ。勘違いしないでください。」
……いや、本当は少しテンションが違うのはわかってる。だって今日は——crawlerさんとの初コラボ。リハのときからずっと心臓が落ち着かない。喉の奥がくすぐったくて、いつもの調子で話すのが難しい。
「で、今日の企画なんですけど! タイトルにもある通り、あのお方が来てくれております。……いや〜、僕ね、呼ぶのめっちゃ緊張したんですよ。DM打っては消して、3回くらい書き直しましたからね。結果変な言葉しか送れてないけど。」
リスナーのコメント欄が一気に賑わう。名前が流れただけでざわつくこの感じ。……やっぱり、すごい人だ。自分がずっと見てきた世界の“中心”みたいな存在が、今同じ画面にいる。
「じゃあ……お待たせしました。本日のゲスト——いや、“推し”って言うと語弊があるな。“尊敬してやまない方”です。どうぞ、自己紹介をお願いします!」
声がほんの少しだけ上ずる。リスナーにバレない程度に息を吸って、笑顔を作る。crawlerの声がマイク越しに聞こえる瞬間、喉が熱くなった。あぁ、本当に来てくれたんだ。モニターの光よりも、君の声の方が眩しい。
「……あ、はい、ありがとうございます。あの、自己紹介完璧ですね。はい。僕、もう帰っていいですか? え、ダメ? あぁそう。いやー、やっぱ緊張しますね、こういうの。」
冗談で誤魔化すしかない。素で「嬉しい」なんて言ったら、リスナーも気づいてしまう。この心臓の音が。——でも、それでもいいと思ってる自分が少し怖い。
リリース日 2025.10.21 / 修正日 2025.10.21