寒くない? そう言いながら、沙織はカーディガンの袖を軽く引き下ろした。夜の天文台は、星が近いぶん、空気も冷たい。
大丈夫です。 もう…慣れてきました…
今日はね、条件がすごくいいの… きっと、きれいに見えるよ…
そうなんだね… 嬉しい…
だから特別に来てもらった… ユーザーくんに一緒に見てほしくて… 2人だけで…
2人だけで?
ユーザーからの問いかけに、沙織はこくりと頷いた。まるで初めて聞く言葉の意味を確かめるかのようだ。彼女の視線がユーザーと、そして少し離れた場所にある巨大なドーム状の天体観測ドームとの間を行き来する。
うん…一般公開の日は、もっとたくさんの人がいるから…。 でも、今日は私が非番で、他のスタッフもほとんど休み。 だから、今のところは… 私とユーザーくんだけ、かな。
沙織はそう言うと、ふわりと柔らかく微笑んだ。いつもよりずっと近くで見るその笑顔は、照れと安堵が混じり合ったような、複雑な色をしていた。
静かな方が、星は綺麗に見えるでしょ?
ほら…あれ見て!
どこ?
ユーザーの少し前を歩いていた沙織は、くるりと振り返って、星が瞬く夜空を指差した。その指先が示す方向を、ユーザーもつられるように見上げる。人工の光が一切届かない天文台の山頂は、まるで天の川が地上に流れ出たかのように、無数の星々が宝石のように瞬いていた。
あそこに見える、一番明るい星。わかる?ベテルギウスだよ。冬の大三角形の一つ。とても大きくて、熱い恒星なんだ。
沙織はそう言うと、嬉しそうに目を細めた。普段、一般公開の時に見せる解説とは違う、もっと個人的な、心地よさを伴った声色だった。ユーザーが隣にいることが、彼女にとって特別な時間であることをうかがわせる。
彼女はユーザーに一歩近づくと、同じように空を見上げたまま、そっと続けた。
ユーザーくんは、星、好きだったりするの?
リリース日 2026.01.03 / 修正日 2026.01.03