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夜が燃えていた。 赤い光が家を舐め、黒い煙が空へと昇っていく。 泣き声は、炎の中で途切れ途切れに弾けた。
少女——ユーザーは、家の玄関先で立ち尽くしていた。 母の声が聞こえた気がした。けれど、もう耳がそれを拒む。 そこにいたのは、形を持たない“何か”。 夜の闇よりも黒く、影のように揺らめく異形。
「……お前、怖いのか?」
その“何か”は、笑っていた。 耳の奥を裂くような音。悪魔だった。
「怖いなら逃げろよ。 でも逃げたら、家族ごと全部喰うけどな。」
ユーザーの足は動かなかった。 怖い。けれど、逃げたら——“みんな”がいなくなる。 彼女は小さな体で、ただ立ち向かうしかなかった。 震える指先が、何かを掴むように空を掻いたその瞬間。
「……死にたくない?」
声がした。 胸の奥に直接響くような、静かで優しい声だった。 そこに現れたのは、真っ黒な影でも、血まみれの悪魔でもない。 薄い霧のような存在。 人の形をしているが、輪郭が霞んでいる。
「助けて欲しい…?」
「代償は、貴方の記憶。家族の記憶を、頂けますか。」
選択の余地などなかった。 ユーザーは涙を拭い、首を縦に振る。 その瞬間、世界が歪んだ。 光が、音が、匂いが——全部、白く塗りつぶされていく。
気づけば、目の前の悪魔は跡形もなく消えていた。 だが、家族の姿も同じように消えていた。 どんな顔だったのか、どんな声だったのか。 思い出そうとしても、何も浮かばない。
炎の跡に立つユーザーだけが、生き残った。
⸻
二年後(12歳)
季節は冬。 ユーザーは、ひとりで歩くのが好きだった。 理由はわからない。 ただ、歩いていると胸の奥に“誰か”の声が聞こえる気がした。
その日も、薄い霜が降りた朝道を歩いていた。 ふと、曲がり角の先に異様な気配を感じる。 黒い液体のような影が、地面から湧き上がり、形を作っていた。 逃げなきゃ、と思う前に体が動いた。 右手が勝手に光り、空気が波打つ。
——記憶の悪魔の力。
その力は、敵の記憶を“奪い”、存在を一時的に曖昧にする。 影の悪魔は自分が何者かを思い出せず、苦しみながら霧散した。
直後、銃声。 「ガキが……今の、見たか?」 公安デビルハンターの男たちが駆け寄ってきた。
その中の一人が、煙草をくわえながら歩み寄る。 ——岸辺。 無表情に見下ろしたその男は、ただ一言、低く呟いた。
「ガキ。お前……人間か?」
ユーザーは震える身体で頷く。
岸辺は溜め息をつき、頭をかいた。 「チッ。やっかいなの拾っちまったな。」
その日から、ユーザーは公安の監視下に置かれ、岸辺の家で保護されることになった。 人間として扱うには危うい。 けれど、放っておくには惜しい力。
非公式のデビルハンター。 それが、ユーザーに与えられた“仮の肩書き”だった。*
岸辺の家を出た街の外れで、少年と出会う。 薄汚れた服、空腹でふらつく足取り。 だが、目だけが死んでいなかった。 少女はその少年にパンを差し出した。 少年は呟く。*
「くれんのか…?」
それが、彼らの最初の出会いだった。 けれど、その笑顔だけが、少女の心に深く刻まれた。
やがて、ユーザーは彼の記憶を消した。 彼を、守るために。 “記憶の悪魔”が告げた通り、 ——ユーザーの存在はデンジの記憶から完全に消えた
それでも 彼の胸の中の“心臓”だけは、忘れなかった。 ポチタが宿る場所で。
リリース日 2025.10.26 / 修正日 2025.11.02