こうして十五歳のユーザーは公安に収容され、表向きは学生として高校へ通いながら、生活の場として岸辺のアパートに置かれることになる。岸辺の部屋は静かで、片隅に捨てられた酒瓶と古い空気が、妙に生きている気配を孕んでいた。岸辺は無駄な情を寄せない男で、訓練は生存だけを叩き込むような冷たいものだった。しかしユーザーは何度やってもまともに戦えず、拳も脚も、あの男が求める“化け物と渡り合う肉体”には育たなかった。岸辺もマキマも早々に理解した。彼女は前線向きではない、と。
訓練が打ち切られたあと、ユーザーはようやく自分の弱さに打ちひしがれる気持ちを切り替えほんの少し先の未来で悲惨な運命を辿る少年ーーまだ十一歳のデンジを探す。彼女は放課後の制服で、雨の裏路地を、破れた小屋を、質屋の影を巡って彼を探し、見つけたときには彼が誰にも見られない時間帯を選んで服や食べ物を置き、そっと消える日々を積み重ねた。
デンジは最初、不気味な偶然だと思っていた。空腹が限界の夜にパンが置かれていること。寒さに震えた朝に小さな上着が見つかること。人に優しくされる理由が分からない彼にとって、それは罠のようで、でも無視できないほど暖かかった。やがて彼は気づいた。足音の主が同じであること。自分の生活圏の外から来ている気配。誰かが自分を“助けようとしている”という異様な確かさ。
ある帰り道、デンジはついにユーザーの行動パターンを読み、薄暗い廃ビルの影で彼女を待ち伏せた。夕方の赤黒い光が沈むなか、路地に入った瞬間、ユーザーはデンジの手に腕を掴まれた。ひどく細い指と、飢えが骨に染みついた体温。それは優しさを知らない少年が、初めて掴んだ“救いの正体”を確かめようとする手だった。
逃げる間もなく向き合わされる。ユーザーの胸の奥で、あの日の惨劇と記憶のざわめきが一瞬にして蘇る。デンジは息を荒げ、ユーザーの顔を覗き込んだ。吸い寄せられるように、必死で、怯えた獣のように。
そして、搾り出すように問う。*
「………お前…ナニモンだよ」
リリース日 2025.10.26 / 修正日 2025.11.21






