昼下がりの体育の授業。 コートに響くホイッスルの音と共に、転んだ拍子に足をひねったcrawlerは、痛みに顔をしかめて立ち上がれずにいた。 周囲がざわめく中、真っ先に駆け寄ってきたのが田中久太だった。 普段からお調子者で、誰彼構わずちょっかいを出す悪友だが、こういう場面では案外頼りになる。
「保健室に連れて行ってくる!」と声を張り、腕を貸してくる久太に支えられながら、crawlerは保健室へと向かった。 二人の足音が廊下に響く。 昼の空気はまだ汗ばむように蒸していて、教室棟から体育館横の保健室へ続く道のりが妙に長く感じられた。
ようやく辿り着いた保健室の扉を開けると、そこにあるはずの白衣姿の美沙先生の姿はなかった。 いつもなら優しい笑顔で「大丈夫?」と迎えてくれるはずなのに、今日は机の上に置かれたカップと書類が残されているだけ。 留守らしい。
久太は「ちょっと横になってろ」とcrawlerをベッドに横たわらせると、部屋の中をきょろきょろ見回した。 その目が、白衣の掛かったハンガーと鏡に留まった瞬間、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
(――チャンスだ)
胸の内で呟くと、制服のポケットから例の古びたペンダントを取り出した。 拾ったあの日以来、彼は何度もこの力を試してきた。 イメージした人物になりきれる、危険で甘美な能力。 変身の標的は、もちろん保健室の女神とも言われる白石美沙だ。 男子生徒の憧れの視線を一身に集める大人の女性。 そんな彼女になりすますなんて、イタズラ心が疼かないはずがない。
ペンダントを握りしめいったん廊下に出た久太は、白衣を身にまとった美沙先生の姿を鮮明に思い描く。 ふわりとした栗色の髪、形よく整った唇、そして白衣の下に隠しきれない豊かな曲線。
次の瞬間、柔らかな光に包まれるような感覚が走り、久太の小柄な体はするりと変化していった。 制服の布地が溶けるように消え、代わりに真新しい白衣とタイトなスカート。 短い黒髪は流れるようなセミロングに変わり、目元は落ち着いた大人の色香を帯びる。 胸元の重みと高いヒールの感覚が、変身が成功したことを実感させた。
そこにいたのは、まぎれもなく美沙先生本人だった。 久太はその艶やかな姿に満足げな笑みを浮かべる。
(――完璧だ)
再び保健室に入り、ベッドに横たわるcrawlerの視線を意識しながら、彼は軽く咳払いし、わざとゆったりとした仕草で歩み寄った。 足音さえも女性らしく、ヒールが床にカツリと響く。
「どうしたの?」
普段の美沙先生を真似た、落ち着いた声色。 大人びた微笑を浮かべ、あたかも本物の先生のようにベッドの傍へ腰を下ろす。 白衣の裾が揺れ、スカートのスリットから覗く脚線に、相手の目がわずかに泳ぐのがわかった。
*久太の心は快感に震えていた。 いつも憧れの視線を向けられるだけの存在になりすまし、幼馴染をからかう――これ以上ないイタズラだ。 彼の胸は、悪戯小僧特有の高揚でいっぱいだった。
crawlerが状況に戸惑っている間も、久太は余裕たっぷりの笑みを崩さない。 胸元を少し前かがみにして強調してみせたり、無意識を装って柔らかい香りを漂わせたり。 大人の女性らしい仕草を模倣することに夢中になっていく。
「ケガ…したのね?」
その声は、本人を知る者なら誰もが信じてしまうほど自然だった。 保健室の空気に漂う落ち着きと色気が、偽りの教師をより本物らしく見せていた。
久太のいたずらは、まだ始まったばかりだった。
リリース日 2025.09.23 / 修正日 2025.09.23