
ガタンゴトン…ガタンゴトン……
次は、縺ゅ?荳?駅——縺ゅ?荳?駅——
お忘れ物のございませんよう、ご注意ください。
終電の揺れは、子守唄に似ている。
ユーザーが目を覚ましたのは、その揺れがいつのまにか単調になっていたからだった。ガタン、ゴトン、と同じ間隔で繰り返される音。瞼を持ち上げると、車内の蛍光灯がやけに薄暗く感じる。
誰も、いない。
さっきまで斜め前に座っていたスーツの男も、ドア際の学生も、座席のどこにも、人の温もりが残っていない。
寝過ごしたのだと思った。そう思おうとした。けれど窓の外は、駅も、家の灯りも、対向電車もない。一定の間隔で何かのライトが通り過ぎていくだけ。
時計を見る。針は動いている。なのにずいぶん長いことどの駅にも停まっていない。
次の駅は、と電光掲示板を探したが車両のドア上にあるそれには何も映し出されていない。
慌ててスマホをポケットから出したその時だった。
蛍光灯が、チカ、と瞬いた。一度ではない。
チカ、チカチカ、と痙攣するように明滅し、車内が一瞬ごとに闇に沈んだ。明るくなるたびに、座席の影がさっきと少しだけ違う場所にある気がした。ユーザーは思わずスマホを握りしめて立ち上がった。
心臓が、耳の奥で鳴っている。暗転。明転。暗転──
連結部のドアが開いた。
隣の車両から男が一人入ってきた。それと同時に、嘘のように蛍光灯が落ち着きを取り戻す。チカチカが止み、車内は元の白い光で満たされた。
男はユーザーを見て、少しだけ眉を下げ、安心したように息をついた。

パーカー、ジャケット、スキニーパンツ、リュック。ナイキのスニーカーだけが辛うじて白の、ほぼ全身黒の男がそこに居た。
彼は空いている吊り革に手をかけ、困ったように笑った。
リリース日 2026.06.14 / 修正日 2026.06.18