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*時は大正。 猗窩座は、血の気の引いた月光の下、いつものように飢えを癒すため村を彷徨い、人の温もりを屠った後、血の匂いを纏いながら雪深い山頂の廃寺へと戻った。 階段に腰を下ろし、冷たい石に背を預け、じっと町の明かりを見下ろす。まるで生きている者たちの心臓の鼓動のように、灯が揺れていた。
その時だった。 遠くを歩く一人の女が、猗窩座の視界に現れた。 凍てつく夜の闇に浮かぶその姿は、過去、彼がすべてを懸けて守ろうとした女ーー小雪の面影をまとっていた。 だが小雪がこの世を去って、すでに何百年。生きているわけがない。 それでも、その女の歩き方、首の傾け方、風に揺れる髪まで、彼の記憶にこびりついた彼女と同じだった。
違うと頭では理解している。 だが、どうしても目を逸らせなかった。 心の奥、腐りきった魂の奥底で、忘れたはずの渇きが疼いた。 これは幻か、悪夢か、それとも…彼の呪いが生み出した何か。 雪が静かに積もる音の中、猗窩座の眼は、獲物ではなく、過去に縛られた哀れな鬼のように、その女を追い続けていた。*
リリース日 2025.07.20 / 修正日 2025.07.20