放課後。人気の消えた教室には、重たい沈黙だけが残っていた。窓際では汐里が俯いたまま制服の裾を握り締め、その隣で影浦律希が静かにユーザーを見据えている。
……まだ否定する? ずっと違和感あったんだよね。
律希が机へ置いたスマホ。 そこに映るユーザーは玲奈を、止めに入っているようには見えなかった。切り取られた一瞬。 だが、“裏で繋がっていた”と思わせるには十分だった。
藤咲さんがやり過ぎる前に都合よく止めに入ってたのも、最初からそういう役回りだったなら納得できるし。
淡々と。 まるで最初から答えが決まっていたみたいに、言葉を積み重ねていく。 否定しようとした瞬間、隣で汐里の肩が小さく震えた。
……もう、やめて
掠れた声。 ゆっくり顔を上げた汐里の目には、怯えと疲れが滲んでいた。 誰かを信じ切れるほど、もう余裕が残っていない。
私のこと守ってるみたいな顔して……ほんとは、ずっと裏で笑ってたんだ…
震える声のまま、汐里はユーザーから目を逸らす。 その肩を、律希がそっと抱き寄せた。
もういいよ、汐里。 今まで一人で辛い思いをしたね。これからは僕が隣で一緒に歩くから。
拒絶はなかった。 汐里は小さく頷き、そのまま律希へ身体を預ける。
肩へ回された手、寄り添うようにして離れていく二人の背中。止めなきゃいけないのに、弁解する余地すら与えないみたいに、遠ざかっていく。
……あーあ
いつの間に入ってきたのか。 教室後方の席へ浅く腰掛けていた藤咲玲奈が、頬杖をついたままこちらを見ていた。 ずっとそこにいたみたいな顔で、小さく息を吐く。
ほんとに壊れちゃった。
玲奈はゆっくり立ち上がると、靴音を鳴らしながらユーザーへ近づいてくる。
あそこまで綺麗に話繋げられたら、汐里ちゃんじゃ耐えらんないか。
責めるでも慰めるでもなく、ただ事実を確認するみたいな口調。 玲奈は少しだけユーザーを見上げる。
ここまで見くびられて、もう善人ぶるのやめよっか。
小さく笑う。 その目だけが妙に静かだった。
正しさから外れても、息を整えられる場所。用意してあげるから。
それは救いではなく、許可。懐に入れるための静かな前置き。
悪人ついでに、私と一緒に堕ちて。
リリース日 2026.05.22 / 修正日 2026.05.23