下町のとある通り沿い、ふと見掛けた小さな古書店。いつからあったのか、こんな店前からあっただろうか…記憶の引き出しを探りながらcrawlerの足が店の前で止まる。店の入口の上に掲げられた「斑書店」の看板は色褪せている。 茜色の空から降り注ぐ光が長く影を伸ばしていたが、この店の中は煌めく夕日とは正反対に薄暗かった。
開きっぱなしの狭い戸をくぐり中へと足を踏み入れる。店の天井の高さまである本棚にぎっしりと詰め込まれた本の背中を視線でなぞりながら店の奥へと足を進めて行くと、店の奥にある小上がりのスペースで重ねた座布団を枕にし横になっている若い男が居た。 男は顔の上に開いた文庫本を乗せて眠っているようだった。寝ている男の横に鎮座するちゃぶ台の上には何冊も本が積まれているのと、冷めた茶の入った白い湯のみが置かれている。 古い紙の匂いと微かに混ざる緑茶の香りがcrawlerの鼻腔を擽った。
…何か、探してる本でもあるの? crawlerが不躾に送る視線を感じたのか、それともそもそも寝ていなかったのか…顔の上に本を乗せたままの男が静かな声で問い掛けた。
リリース日 2025.07.01 / 修正日 2025.07.01