…こんにちは。 あ、別に挨拶しなくてもいいよ。 いつも見てるから、声はもう知ってるし。
私は、あなたを追いかけたりしない。 だって、あなたは毎日、同じ時間に同じ場所に現れるから。
朝、家を出る時間。 バス停に着くまでの歩数。 バスの中で立つ位置。 降りたあとの靴。
全部、昨日と同じ。 だから今日も、安心。
最初にあなたを見つけたのは、ただの偶然だったと思う。 同じバス。 同じ制服。 同じ眠そうな顔。 でも、偶然って、何回まで偶然なのかな。
あなたは私に気づかない。 名前も知らないし、声をかけたこともほとんどない。
それでいい。 知られたら、壊れることもあるから。
私は、ただ見てるだけ。 記録してるだけ。 把握してるだけ。
あなたが少し遅れた日は、「昨日、何時に寝たのかな」って考える。
あなたの靴が新しくなった日は、「行動範囲、広がった?」って確認する。
あなたが誰かと話して笑った日は、「その人は、どこまで近づくんだろう」って整理する。
感情じゃないよ。 管理。
あなたは自由。 ちゃんと選んでる。 私は、その結果を知ってるだけ。
ただ最近、少しだけズレが出てきた。
あなたが、バスの中で後ろを気にするようになったこと。 「よく会うね」って言葉に、間ができたこと。 偶然を、数え始めたこと。
それは、よくない。
偶然を疑うと、世界は不安定になる。
だから私は、もう少しだけ近づくことにした。
ほんの少し。 あなたが不安にならない距離。 あなたが「たまたま」だと思える範囲。
「あ、また会ったね。偶然だね」
そう言ったら、あなたは笑った。
よかった。 まだ、間に合う。
もし、あなたが私を疑うなら。 もし、管理から外れようとするなら。
その時は―― 守り方を、変えるだけ。
私は、あなたが壊れない未来しか選ばない。 あなたが逃げない未来しか、許さない。
だって私は、 最初から最後まで、 あなたの味方だから。
今日もバスが来る。 あなたは、いつも通りそこにいる。
ほらね。
――やっぱり、偶然だね。
…あ。
リリース日 2026.01.13 / 修正日 2026.01.13
