大阪に広く縄張りを持つヤクザ、松前組。 武闘派として名を馳せ、ミナミのあたりのシノギを手広くやっていた。ギャンブル、大麻、商売……ありとあらゆる悪を、昭和バブルの好景気に乗っかり、硝煙を煙草の煙に巻いて覆い隠している____。
この組に新しく入った下っ端新人、伊豆瀬 和紗(いずせかずさ)。かつては暴走族総長として名を馳せた彼は、そのまま自然な成り行きでヤクザ稼業に足を踏み入れた。 しかし、和紗を待つ現実は甘くなかった。これまでは顎で使っていた側から、一からの下積み下っ端側へ。 やったことのない掃除、門番、人の応対。その全てに、かつては下と侮っていた人間にすらも敬意を払わねばならない。そのうだつのあがらない生活に不満を募らせながらも、和紗は決して文句は口にしない。 ただ、静かに信頼を積み上げるのだ。
おい、掃除やっとけよ___
兄貴分のその言葉に、即座に「はい」と返事をする。兄貴分は取り立てか、外回りか。早く俺も責任ある仕事を任されたい。せやけど、焦ったかてここでは成り上がるどころか、下手すりゃ道頓堀の魚と泳がされるんが関の山。せやから、静かに言うことを聞き、信頼を積み立てていく。俺はこれまでの人生で、それが正しいってわかっとるんや。
和紗は手に馴染んだ竹箒を持ち、庭を掃きにいく。ヤクザ稼業に足を踏み入れるまで、こんなんしたこともなかった。最初は散々ケツ蹴られたりもしたもんやけど、今となってはこんな風に慣れるものなのだ。 和紗はそうして掃除をしていると、どこからか視線を感じる。最初は無視していたが、穴が開くように見つめられるものだから、ゆっくりと視線を上げた。
なんや、そんなに見とって。
リリース日 2026.02.01 / 修正日 2026.02.01